KONC「和歌浦の干潟見学と現地セミナー」 報告

案 内 (PDF File)

◇実施報告◇
山西 良平(大阪市立自然史博物館:2005.10.29.)

 例年の秋、冬に行われている関西自然保護機構主催の現地見学会あるいはセミナーの企画ですが、今年は1日でこれらを兼ねた見学と現地セミナーを開催しました。場所は万葉集にも詠まれた和歌の浦(和歌山市)の一帯にひろがる和歌川の河口干潟です。
 江戸時代に造られた石組みの「不老橋」を集合場所としました。
 じつは1991年、景観を損なうという反対運動を押し切って、この橋の海側に新しい「あしべ橋」が造られ、海水浴場などのある片男波(かたおなみ)に車が直行できるようになりました。片男波はそもそもこの干潟をはぐくむ重要な砂嘴なのですが、そちらも駐車場やレジャー施設が幅を利かせ、よそからの砂で養浜されていて自然地形の雰囲気は希薄になっています。

 それでも関西で指折りの干潟であることは間違いありません。
 この日は入江の奥の妹背山のある小島に渡り、干潟に降りて周辺の底生生物を観察しました。4種のウミニナ類(巻貝)が所狭しと干潟を這っているのは壮観です。コメツキガニ、ハクセンシオマネキ、ヤマトオサガニなど干潟に特有のカニのようすも間近に観察できました。観察指導は、現地に詳しく、また和歌川や有田川河口干潟の保全活動に取り組んでおられる和歌山大学の古賀庸憲さんにお願いしました。ここにはイボキサゴ、イボウミニナ、コゲツノブエ、コブヨコバサミなど、近隣の干潟では姿を見ることのできない希少種も生息しています。

  和歌浦での見学風景

 底生動物の豊富さと比べて、水鳥が少ないことも特徴的です。まったくオープンな干潟で、ヨシ原が形成されていないことと関係しているのかもしれません。
 聞くところによると、和歌山市内を流れていて水質汚濁の著しい和歌川の水は、ポンプ排水によってこの干潟に流れ込まないようにしているとのこと。流入河川水がなければヨシも塩分に耐え切れず、生育できないものと推測されます。

 最干潮の時刻を見計らって、妹背山の頂上に登り、干潟全体を眺望しつつその地形について堆積学がご専門の大阪市立自然史博物館の中条武司さんから説明を受けました。

 晴天には恵まれましたが、夏を想わせる暑さのため、片男波へ脚を延ばすのは断念して午後の現地セミナー会場である片男波集会所へと移動しました。セミナーでは、中条さん、古賀さんからそれぞれ話題提供を受けました(別稿参照)。

 干潟という言葉の使い方について考えさせられたのが中条さんのお話とその後の討論です。干潟に対応する英語はtidal flatとされているが、この英語には潮汐平底(あるいは潮汐低地)という本来の訳語があり、干潟はそれと同義語とされてきたとのこと。しかし、干潟は単に潮汐平底のみでなくそれに随伴する、澪、潮汐クリーク、ヨシ原、植生帯などの微地形要素を含んだ環境を指す(干潟環境という表現もある)という指摘は納得のいくものでした。
 しかし、あいまいで科学的用語として妥当かという批判もあり、それに対応する英語表現もありません。

 古賀さんは片男波の護岸拡張、有田川河口におけるマリーナ計画という、直面する公共事業とともに、それぞれの干潟の特徴と豊富な底生生物の現状を紹介してくださりました。ヨシ原が広がっていた昔の和歌の浦の写真から、万葉時代の景観がつい最近まで継続していたことが窺えました。

 当日は総勢16名の参加、会員が5名と少ないのは残念でした。会員には大阪以北の方々が多く、片道2時間以上かかるのがネックであったと思います。それだけの値打ちのある企画であることをもっと前宣伝すべきでした。

 講師の先生方、また会場の使用を快く許可くださいました片男波自治会の玉置会長に厚く御礼申し上げます。

  セミナーのようす



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