大阪府高等学校生物教育研究会 2000/11/03
実験の紹介
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グリセリン筋の収縮
−−−ATPによる筋収縮と筋繊維の観察−−−
◎平成9年12月12日
◎第3回実験研修会(於府立茨木高校)
◎府立豊中高校 小田勝士
- はじめに
筋収縮のしくみの研究の歴史に於いて、セント=ジェルジの考案したグリセリン筋は、細胞膜をはじめとする膜構造が壊れ、トロポニンなど筋収縮を調節するタンパク質が溶出し、アクチン・ミオシン系の収縮構造しか残らない。しかし、単純化した実験系で骨格筋の収縮が観察できるので、一時期盛んに使われた。生の筋肉標本との収縮の違いを比較観察するのが一番良いのであろうが、単純化した実験系で分析的にそのしくみを考える筋収縮の実験を行うことが、なかなか大変になってきているので、一度作れば保存がきき、手軽に筋収縮のモデルが観察できるグリセリン筋は、高校生物の実験材料としての価値はいささかも減ずることはないのではないかと考えている。
- グリセリン筋の調整−−−−ニワトリのささみを用いて
カエルの縫匠筋を使うのがオーソドックスだが、ここでは入手が簡単なニワトリの胸筋を使う方法を述べる。
- 鳥肉専門店で、ニワトリのささみを入手する。冷凍ものはよくない。
- 筋肉の方向に沿って、直径5mm程度に割く。
- そのまま50%グリセリン水溶液に漬け、一旦、冷凍室に保管する。
- 2日くらい経過したら、新しいグリセリン水溶液に入れ換えて、0℃以下で保存する。こうしておくと、2年間くらいは、いつでも好きなときに実験に供する事ができる。
- グリセリン筋の収縮(留意点)
- グリセリン処理筋は、グリセリンの中で、できるだけ細く(直径1mm以下に)ほぐす。あまり太いと収縮率が悪くなる。
- グリセリン処理筋は洗浄液で洗い、試験液を1滴落としてから収縮させるのが通常だが、長期間グリセリンに漬かっていたものでは、生理食塩水であらってATPをかけただけでも良く収縮する。
- 洗浄液(生理食塩水)には長くつけすぎないこと。グリセリンをすすぎ落とすだけでよい。
- ATP製剤(アデホス−L−3号)を使用すると非常に効果的である。使用しないときは、冷蔵庫に保管のこと。(通常の薬品と異なり、学校薬剤師を通じて入手する)
- スライドグラスの下にグラフ用紙を敷いて、収縮率を測定する。
- グリセリン筋はその構造上、収縮するだけで弛緩できないこと。グリセリンによって酵素活性だけは抑制されて保たれているので、ATPを直に作用させると収縮できることなどを確認しておく。
- 筋繊維の観察(留意点)
- 染色して顕微鏡観察するので、収縮前後を同じ材料で観察できないことを注意しておく(つまり、繊維の太さや色の濃さなどを比較しても意味がないということ)。
- 筋繊維はできるだけ細くする。うまくすると、収縮させなかったものでは横紋が観察できる。
- 収縮させて、染色したものでは繊維の配列が乱れているのがはっきりわかるが、この方法では横紋の間隔が詰まっているかどうかの判別までは困難である。
- おわりに
グリセリン筋はうまく調製すれば30〜50%は収縮する。細くしたものでは、生きたように縮むので生徒の反応も上々である。今回の実験研修会の準備にあたり、協力していただいた先生方に感謝します。