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2020年11月13日

視覚障害者接遇研修

博物館にはたくさんのお客さんがいらっしゃいます。
その中には、視覚障害を持つ方もおられます。視覚障害を持つお客さんが手助けを必要とされたときに博物館のスタッフが適切に対応できるよう、11月12日の午後に、社会福祉法人日本ライトハウスよりお二人の講師を派遣していただいて、「視覚障害者接遇研修」を行いました。


自然史博物館の事務職員や学芸員、受付スタッフや警備員、ショップスタッフ、長居植物園スタッフなど、約20名が研修を受けました。


視覚障害を持つ人を手助けするときに必要な事や、博物館の施設や展示を説明するときに気をつけることをご教示いただきました。また、スタッフが依頼を受ける可能性があるのが、お手洗いへの案内です。


どのようなことに気をつけたらよいか、実際にお手洗いで解説していただきました。
さらに、講師のお一人が、しばしば博物館や美術館に行くという視覚障害当事者の方で、行ってみてがっかりした博物館の対応、とても感動した博物館の設備や対応などをお話されました。


参加者一同、真剣に聞き入りました。明日からの実践でも役に立つだけでなく、博物館を将来どのように変えていったらよいかを考えるのに、とても参考になる研修でした。研修で伺ったことを元に、視覚障害を持つ方にも安心して博物館に遊びにきていただけるよう、時間がかかるかもしれませんが、少しずつ工夫をしていきたいものです。


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研修の様子

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展示室でどのように解説したらよいか、ご教示いただきました


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緩いスロープで視覚障害者のてびきを実際にやってみました

2020年11月09日

長居植物園案内(11月)

新型コロナウイルス拡大防止のため、毎月、違った方法で植物園案内を開催しています。今月は、なるべく密にならないで済むものを観察しながら、通常通りに近い植物園案内を目指しました。植物園案内は申込制などにはせず、なるべく来館した方がみなさん楽しんでもらえるような形で続けていきたいと考えています。ご協力、よろしくお願いします。(横川)


◆ケヤキ(ニレ科)
葉が黄色く色づいてきていましたが、よく見ると枝の先の一部の葉は特に茶色くなっていました。葉が茶色くなった枝は春に2週間ほど早く展葉した枝で、花が付いていた枝でもあります。この枝には果実が付いており、種子散布される際には枝ごと落ち、一緒に付いている葉は翼の役割を果たします。落ち葉の中を探してみると葉と果実が付いたケヤキの小枝を見つけることができました。


◆クスノキ(クスノキ科)
クスノキの枝をよく見ると、茶色い斑点が出ている葉があります。これはクスベニヒラタカスミカメという外来のカメムシが葉の汁を吸った跡です。枝をさらによく見てみると、クスベニヒラタカスミカメの吸汁跡が付いている葉と付いていない葉があり、付いていない葉はより枝先に集まっているように見えました。クスノキは春先に展葉しますが、夏になると新たに枝と葉を出す、いわゆる土用芽を出します。より枝先の葉が吸汁されていないというのは、おそらく土用芽に由来する葉は吸汁されていないということなのでしょう。クスベニヒラタカスミカメの発生の消長と土用芽の出るタイミングがうまくずれていたのだと思います。
クスベニヒラタカスミカメについては昆虫研究室の初宿さんのページに詳しく載っています。
http://www.mus-nh.city.osaka.jp/shiyake/Mansoniella-cinnamomi.html


◆カツラ(カツラ科)
カツラの葉も黄色く紅葉していました。カツラの落ち葉の匂いをかいでみるととてもいい香りがしました。なぜ落ち葉からいい香りがするのかはよくわかりません。大阪近郊の山だとタカノツメの落ち葉もいい香りがします。


◆シナアブラギリ(トウダイグサ科)
ちょうど大きな実がぶら下がっていました。シナアブラギリによく似た植物でアブラギリがありますが、葉柄の先端の腺の形を比べると違いがわかります。シナアブラギリの腺は葉柄にくっついていますが、アブラギリの腺には柄があり葉柄の先から飛び出します。腺点を観察しているとアリがやってきて蜜をなめていました。同じトウダイグサ科のアカメガシワの葉にも蜜を出す腺があり、アリがやってきます。

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シナアブラギリの葉

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シナアブラギリの葉柄の先の腺点


◆トチュウ(トチュウ科)
トチュウの一番の特徴は葉や果実をゆっくり引っ張って裂いてみるとゴム状の糸が出てくることです。葉の切片を作って、観察してみると、このゴム状の糸は葉の中の管から出ているようでしたがどういう役割をしているのかはわかりません。退職した植物化石担当の塚腰学芸員が言うには、トチュウの仲間の化石もゴム状の糸が出てくるようです。


◆アオギリ(アオイ科)
果実がたくさんなっていました。たくさんぶら下がっているボート状の果実、1個1個が一つの花に由来するのではなく、4個もしくは5個が1つの花に由来します。よく見ると小さな柄ごとに4個もしくは5個の果実がセットになっているのがわかります。花のころは5個の雌しべが合着しており、受粉後、果実として成長していく過程で分かれていきます。一つ一つの果実は筒状なのですが、熟すころには開いてボート状になり、縁に種子を付けた状態になります。この果実を投げてみるとくるくると回転しながら落下していくことから、風によってある程度種子が運ばれるようです。

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アオギリの果実

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アオギリの種子


◆アメリカスズカケノキ(スズカケノキ科)
樹名板はモミジバスズカケノキになっていましたが、おそらくアメリカスズカケノキではないかと思います。枝を眺めてみると丸い果実の塊がぶら下がっているのがわかりますが、どの枝もぶら下がっているのは1つだけでした。アメリカスズカケノキは果実が1だけぶら下がり、スズカケノキは果実が3から7個ぶら下がります。モミジバスズカケノキはアメリカスズカケノキとスズカケノキの雑種に由来するとされ、果実が1-3個ぶら下がります。これらの植物はプラタナスとも呼ばれ、街路樹などとして親しまれています。

さて、アメリカスズカケノキの葉を見てみると葉全体が白くなっていました。これは斑入りの品種でも紅葉でもなくプラタナスグンバイという外来のグンバイムシ(軍配の形をしているためこのような名前で呼ばれている)の仲間に葉を吸われた跡です。葉の裏や樹皮の裏を探してみるとプラタナスグンバイがたくさん見つかりました。


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プラタナスグンバイに吸汁されたアメリカスズカケノキの葉


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葉の裏で見つけたプラタナスグンバイ


◆ハルニレ(ニレ科)
北海道などに多い樹木です。大阪の周辺では、ハルニレに近縁なアキニレをよく見ます。アキニレに比べてかなり葉が大きく、左右非対称の葉形が特徴です。幹から萌芽枝が出ており、萌芽枝を見てみると四方向にコブができていました。このように若い枝にコブができるものをコブニレと呼び品種として分けられています。コブの出た枝を鋏で切ってみると、中心に丸い枝があり、その周囲にコルク質のコブができていることがわかりました。つまり、枝がぼこぼことコブになったのではなく、枝と別組織としてコブを作っているようです。このコブは外敵から枝を守るために作られるのでしょうか、役割はよくわかりません。

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左右非対称で大きなハルニレの葉

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萌芽枝にできたコブ


◆ヒメガマ(ガマ科)
大池のほとりに湿性植物帯があり、ヒメガマが結実していました。茶色いソーセージのような雌花穂の上をよく見ると細い茎が残っています。緑の細い茎の上部の茶色い部分はもともと雄花穂が付いていた部分です。ヒメガマの特徴は、このように雌花穂と雄花穂が離れ、間に茎がむき出しになることです。大阪周辺に生育するガマ科の植物はヒメガマ以外にガマとコガマがありますが、この2種は雌花穂と雄花穂がくっついて咲きます。


◆ゴキヅル(ウリ科)
ヒメガマの茎に巻き付いてたくさん果実を付けていました。ゴキヅルは水辺、特に河川の氾濫原などに生育するつる植物で、大阪では淀川や石川に生育しています。果実は上下2つの部分からなり、中に種子が入ってます。果実が熟すとふた付きのお椀のようにきれいに分かれるため、合器(ごき)のようなつるということでゴキヅルと呼ばれています。

2020年11月05日

テーマ別自然観察会「秋の木の実」

2020年10月25日(日)天気の良い中、高槻市の上ノ口から摂津峡を通ってあくあぴあ芥川まで歩きながら木の実を観察しました。木の実と題した行事ですが、草のタネもたくさん観察しました。鳥が食べて運ばれるタネ、動物にひっついて運ばれるタネ、風で飛んでいくタネ、普段は動けない植物にとって、タネは唯一の動けるタイミングです。様々なタネの動き方も含めて観察しました。(横川)


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.みんなでノブドウを観察。カラフルな実を付けるつる植物です。

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たくさん「ひっつきむし」を付けた参加者も。「ひっつきむし」は植物のタネです。

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ふわふわの冠毛が付いたセンニンソウ

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行事の途中で見られたたくさんのタネ


観察した植物:アオツヅラフジ、アレチヌスビトハギ、ハナミズキ、ヘクソカズラ、クサギ、キバナコスモス、コウヤボウキ、チャノキ、イノコヅチ、イタドリ、トウネズミモチ、カキノキ、ナラガシワ、ノブドウ、ヤマノイモ、スイカズラ、コセンダングサ、アメリカセンダングサ、ケチヂミザサ、フユイチゴ、イロハカエデ、センニンソウ、ケヤブハギ、チカラシバ、コバノガマズミ、リンドウ、コブシ、ヌルデ、クロガネモチなど


この行事は高槻市立自然博物館あくあぴあ芥川との共催で実施しました。
写真はあくあぴあ芥川から提供していただきました。

長居植物園案内(10月)

新型コロナウイルス拡大防止のため、毎月、違った方法で植物園案内を開催しています。今月は、なるべく密にならないで済むものを観察しながら、通常通りに近い植物園案内を目指しました。植物園案内は申込制などにはせず、なるべく来館した方がみなさん楽しんでもらえるような形で続けていきたいと考えています。ご協力、よろしくお願いします。(横川)


◆アラカシ(ブナ科)
少し離れて遠目にわかることを観察しました。今の時期のアラカシ全体を見ると、枝の先にドングリが付いているのがわかります。アラカシは春に咲いた花が結実して、その年の秋にドングリが大きくなります。花は枝の先に咲くので、ドングリも枝の先に付きます。これが、同じカシの仲間でもウラジロガシやアカガシのように、春に咲いた花が、翌年の秋にドングリになる種類だと、ドングリは枝の先ではなく、その年伸びた枝の元に付きます。そうなると遠くから見たドングリの見え方が変わってきます。


◆シリブカガシ(ブナ科)
 日本に自生するドングリを付ける木は春に花を咲かせるものがほとんどですが、シリブカガシは日本産のドングリを付ける木の中で唯一秋に花が咲きます。ドングリが大きくなるのも秋なので、花とドングリが同時に見られます。観察したシリブカガシはちょうど花の咲き始めで、雄しべが飛び出してブラシ状に見える雄花序と丈夫そうな軸に雌花がたくさん付いた雌花序が見られました。ドングリと花序の位置関係を見てみると、今年咲いている花は枝の先に、ドングリ(すなわち去年咲いた花)は花序が付いた枝の元に付いていました。このような位置関係からも、今なっているドングリがいつ咲いた花に由来するのかがわかります。


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ドングリと花を同時につけたシリブカガシ

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満開のシリブカガシ


◆カゴノキ(クスノキ科)
樹皮がうろこ状に剥がれて、シカの子どものような独特の模様をしていることからカゴノキ(鹿子の木)と呼ばれています。樹皮が独特な樹種は、樹皮で覚えてしまいがちですが、樹皮以外もよく見てみましょう。葉は少し薄くて裏が白っぽく、先の方の枝は黒っぽくなり、尖った冬芽を付ける、などの特徴があります。低地の照葉樹林に生え、大阪だと岬町などに行事で行ったときによく見られます。


◆ウラジロガシ(ブナ科)
ツバキ園・照葉樹林内を歩いていると、ドングリと葉が付いた枝が落ちていました。葉を見てみると、細長くて裏が白く、鋸歯が強いことからウラジロガシの枝です。ドングリをよく見ると、昆虫が産卵した跡が残っており、これはチョッキリの仲間が産卵して、枝を切って落としたものでしょう。枝の切り口が少しささくれていながらもきれいなので、チョッキリの仲間が落としたことがわかります。


◆アカガシ(ブナ科)
今日観察したアラカシやウラジロガシに比べて、葉の縁に鋸歯がないのがアカガシの特徴です。最近、植えられたこともあってまだドングリを付けていませんでしたが、枝をよく見ると雌花序が残っていました。これはこの春に咲いたもので、きっと来年にはドングリを付けるのでしょう。


◆ハマビワ(クスノキ科)
 海岸の斜面や森林に生える樹木。葉の裏や葉柄に黄色っぽい毛がたくさん生えるのが特徴です。ちょうど花が咲いている時期で、枝のくっつくように花が密に咲く様子が観察できました。


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花を咲かせたハマビワ


◆ソテツ(ソテツ科)
日本では主に南西諸島に自生する裸子植物です。南西諸島では救荒植物として利用されていたとされ、種子の中身を水にさらして有毒成分を抜いてから食用にしていたようです。ソテツの周りをよく見ると小さなチョウが飛んでいましたが、これはクロマダラソテツシジミというソテツを食べるシジミチョウの仲間です。

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ソテツの葉とクロマダラソテツシジミ


◆ヒガンバナ(ヒガンバナ科)
キッチンガーデンの近くに、赤・白・黄色のヒガンバナ類が並んで生えていました。赤色のものがヒガンバナで、黄色のものがショウキズイセンです。白色のものはシロバナマンジュシャゲと呼ばれ、ヒガンバナとショウキズイセンの雑種だと言われています。シロバナマンジュシャゲは九州南部などに多いらしいです。

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白色のシロバナマンジュシャゲと赤色のヒガンバナ


◆ビワ(バラ科)
ハマビワと比較してみました。葉の裏を見てみると、確かにハマビワと似ているような気がします。花の付き方も含めて似ているような気がしますが、ビワはバラ科でハマビワはクスノキ科。全然異なるグループの植物です。ビワは冬に咲くため、花が少ない時期に見られる貴重な花でもあります。


◆イヌビワ(クワ科)
 これも「ビワ」という名前が付くが、ビワの仲間ではありません。果実の形を見ると確かにビワに似ているような気がします。イヌビワコバチという小さなハチが受粉を担っています。


◆スイフヨウ(アオイ科)
八重咲になるハイビスカスの仲間で、咲き始めは白色だが、気温に応じて花の色がピンクに変わります。下見で見たときは白かった花が、ピンク色になっていました。気温が高くなるとアントシアニンが合成されて赤っぽい色になるようです。隣に植えられているフヨウの花を見てみると、雌しべが5本合わさって、その軸を取り巻くように雄しべが生えていました。八重咲の花びらは雄しべが花びらになったものなので、スイフヨウの中心に花びらを絞ったような花の形は、もともとの雄しべの並びを見るととても理解しやすいです。

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スイフヨウ


◆シコンノボタン(ノボタン科)
濃い紫色の花弁が5枚あり、長い雄しべが5本、短い雄しべが5本あります。よく見ると真ん中に雌しべが1本あります。雄しべに触っても花粉はつきませんが、先の方の鎌状に曲がった部分が葯で、葯の先端に穴があり、そこから花粉が出てくるようです。雄しべの曲がっている所が白く突起になっているが、これは虫を呼ぶための構造なのでしょう。実際に虫が来るときにどうなっているのかはよく観察してみないとわかりません。

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シコンノボタン


◆ハリエンジュ(マメ科)
一昨年の台風で、植物園案内のあちこちにギャップができました。ギャップは、林の中で木が倒れて空があいて見える部分のことで、ギャップができると林床まで光が届いて、様々な木が生えてきて森林の世代交代が進みます。ギャップに生えている木を見てみると、アカメガシワやセンダン、エノキなどが確認できましたが、観察した場所で特に目立っていたのはハリエンジュでした。観察した場所の近くにハリエンジュの大木があり、そこから伸びてきた根から出てきた根萌芽で増えているようです。生えていたハリエンジュは直列に並んでおり、土を掘ってみると横に長く伸びる根も確認できました。