45.ウキクサ個体群の成長曲線
 
大阪府立泉北高等学校
木村 進
 
【実験のねらい】
 本項目は、ウキクサ個体群の個体数の増加を示すデータから成長曲線を描く実習と、3種類の環境条件を何段階かに設定してウキクサの個体数の増加との関係をみる実験とから構成されており、実験のねらいは次の2点にまとめられる。
1.個体群の成長曲線は、個体数の増加に伴って、環境抵抗が大きくなり、ある一定の上限値に近づくS字状のいわゆるロジスティック曲線になることを確認させる。
2.環境条件を制御することの重要性とその方法について学ぶとともに、条件によってウキクサの増殖に対する作用がどのように異なるかを理解させる。
 なお、この実験では、葉状体数を個体数として取り扱っている。ウキクサ類の葉状体は、切り離しても生存できるという点では個体として扱えるが、そのまま放置しておくと、葉状体が5〜6枚になるまで分離しないので、厳密には個体といえない点に留意しておいてほしい。
 
【準備】
1. 作業
 鉛筆を準備するだけでよいが、1枚の用紙に3本のグラフを描くので、2〜3色の色鉛筆を用意させるとよい。また、片対数グラフ用紙も準備して、比較させるとよい。また、この作業は、実際に実験をするのも容易である。
2. 実験
(1)容器―100〜200ml用のビーカー、または、アイスクリームのカップ。
(2)実験教材―ウキクサ類も多種類あるが、コウキクサやアオウキクサがよい。野外で採集してきたものは、よく水で洗ってから室内の窓際においた水槽かバットの培養液中で最低1週間は予備的に培養しておくとよい。種類の見分け方は下図参照。(図1
(3)栄養塩類―「ハイポネックス」0.5gを水1Lに溶かして用いるとよい。これ以外の市販の肥料もたいてい使える。また、液体肥料を用いてもよい。
(4)光の強さを調節するためには、園芸用の寒冷沙を適当な大きさに切り、1・2・3・4枚ずつホッチキスで止めて、ビーカーの上に載せておく。入手できないときは、ガーゼやペーパータオルを用いるとよい。
(5)容器よりもやや背の低い大型バットを用意し、水を満たしてビーカーを並べておくと水温を一定に保つことができる。また、バットの内壁に黒いビニールシートを敷いておくと水温を上げるのに役立つ。

    
 
【実験上の留意点】
1. 作業
(1)図2aは、0〜12日の日数の経過に伴う葉状体の変化をグラフにする。折れ線グラフでもよいが、点を通るようになめらかな曲線で結ぶ方がよい。A・B・Cの3つは最初に入れた個体数(初期密度)が異なるもので、3本のグラフを色を変えて描くとよい。
(2)図2bは初期密度と葉状体の変化を、日を追ってグラフ化するものである。0日は直線であるが、次第に初期密度にかかわらず葉状体数は一定に近づくことから、いわゆる「最終収量一定の法則」に気づかせようとした。


          図2a                 図2b
2. 実験
(1)ビーカーを入れたバットは、室内のできるだけ明るい窓際に置く。明るい場所が使えない時は、蛍光灯を用いて照明する。また、ビーカーによって光の条件に差が出ないように、時々ビーカーの位置を動かしたり、バットの向きを変えたりする。
(2)実験中に水分が蒸発していくので、時々水道水を補給して水位を一定に保つようにする。容器の上に包装用ラップフィルムをかぶせておくと、水の蒸発やチョークなどのほこりの混入を防ぐことができる。
(3)葉状体の枚数を数えるのは1〜2週間後としたが、3〜4日毎に数えることが可能であればそうすればよい。成長が遅いときは3〜4週間後にする。ただし、枚数が増えすぎると、重なって数えにくいので、少し大きい別の容器に、水を張ってからウキクサをすべて移して数えるとよい。
 
【結果と考察】
1. 作業の結果―次にグラフの記入例を示す。(図3
            表1




<考察の解答例>
(1)650〜700個体。
(2)個体数の増加にともなって、1個体あたりの空間や栄養塩類の量が減少するため。
(3)580個体。
(4)上限の葉状体と、上限に達するまでの日数が増加する。
2.実験―以下に実験の結果を載せておくので、実験をしないときには利用してほしい。
<考察の解答例>
A.栄養塩類濃度―0.5g/lが最適濃度で、それより薄くても濃くても増殖は低下する。
B.相対照度―かぶせる布の枚数が少なく、照度が高い条件でよく増殖する。
C.硫酸銅濃度―濃度が高くなるほど増殖が低下し、160ppmではすべて枯死する。
 
【参考文献】
梅埜國夫・下野洋・松原静郎(1993):身近な環境を調べる、p.282、東洋館出版社

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