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長居植物園案内(9月)

新型コロナウイルス拡大防止のため、10人ずつぐらいのグループに分かれて、8分おきぐらいに出発することで密になり状況を避けました。そのため、いつもよりも観察時間は短くなりましたが、学芸員あたりの参加者数は少なくなり、人の密を避けながら、内容は密な観察会ができたのではないかと思います。来月以降も新型コロナウイルスの状況に応じて変則的な植物園案内になると思いますが、ご協力、よろしくお願いします。(佐久間・長谷川・横川)


◆エンジュ(マメ科)
 先月の植物園案内では白い花がたくさん落ちており、花の構造などを観察しました。一ヶ月経って、花はわずかに残っており、数珠のような形の果実が熟しはじめていました。エンジュの果実はさやがジューシーで鳥が食べに来ますが、まだ少し硬かったです。12月の鳥スペシャルの回には鳥との関係なども解説する予定です。


◆キク科の雑草(キク科)と様々な稚樹
 2018年の台風21号がやってきたときに長居植物園内でも多くの木が倒れました。木が倒れると林の高いところを覆っていた枝葉がなくなり、見上げるとぽっかりと空があいて見えます。林の中で木が倒れて空があいて見える部分のことを生態学の専門用語でギャップと言います。ギャップができると地面が明るくなるので、いろんな植物が生えてきます。観察したギャップではヒメムカシヨモギやオオアレチノギク、セイタカアワダチソウといったキク科の雑草がたくさん生えていました。これらは風で種子が飛ぶため、ギャップができた後に種子が飛んできたのではないかと思います。

 ヒメムカシヨモギとオオアレチノギクはよく似ていますが、遠目に見ると花序の形が異なっているようです。ヒメムカシヨモギは花をつける枝が先の方に集まり、横に伸ばすので全体に頭でっかちで広がったような形になりますが、オオアレチノギクは花をつける枝をあまり横に伸ばさないので、広がった印象になりません。また、写真で解説していますが、葉や頭花の形も違っています。

ギャップにはエノキ、センダン、ナンキンハゼ、アカメガシワなどの稚樹(樹木の子ども)もたくさん生えていました。これらの木はすべて鳥が果実を食べて、ふんの中に種子が混ざって、種子散布されます。ギャップの周りにある木の枝に鳥が止まってそこでふんをして落ちてきた種子が育ったでしょう。ただし、アカメガシワの成木は植物園内にはなく、埋土種子(土の中で眠っていた種子)が発芽してきたのかもしれません。アカメガシワは埋土種子をよく作るとされます。


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木が倒れてできたギャップに生えたヒメムカシヨモギやオオアレチノギクなど。


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ヒメムカシヨモギ(右)とオオアレチノギク(左)の花序の形の違い。ヒメムカシヨモギは花をつける枝が先の方に集まり、横に伸ばすので全体に頭でっかちで広がったような形になる。


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ヒメムカシヨモギ(左)とオオアレチノギク(右)の葉の違い。ヒメムカシヨモギの葉の毛は少ないが、長さが長く葉の縁から毛が飛び出して見える。オオアレチノギクは葉裏に毛が多いが長さは短い。


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ヒメムカシヨモギ(左)とオオアレチノギク(右)の頭花の違い。ヒメムカシヨモギの頭花は細く、舌状花が明らか。オオアレチノギクの頭花は丸く、舌状花が目立たない。


◆ヤブニッケイ(クスノキ科)
 ヤブニッケイはコクサギ型葉序と呼ばれる少し変わった葉の付き方をしています。葉序とは枝に付く葉の並び方のことで、互生や対生といった葉序はよく知られています。互生は枝に対して1枚ずつ左右交互に葉が付き、対生は1ヵ所から葉が対になって2枚ずつ付きます。コクサギ型葉序というのは、右右・左左・右右・左左…という感じで、2枚ずつ左右交互に葉が付く葉序のことです。ヤブニッケイはコクサギ型葉序になることが知られていますが、実は少し曖昧で、枝によっては葉の間隔がまちまちで対生に見えることもあったりします。


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ヤブニッケイの葉。この写真の枝は2枚ずつ左右交互に葉が付いていた。


◆コキア(ヒユ科)
 最近、植物園に植えられるようになりました。こんもりした形になり、秋になると真っ赤に染まるので観賞用としてはとても面白い植物です。よく見ると葉の付け根に小さな花をつけており、雄しべが飛び出していました。さらによく見ると、数は少ないがより小さくて雄しべのない花があり、これは雌花だと思われました。


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コキア.「目」を付けてお客さんの目を惹くようにしているようだ。


◆ジャカランダ(ノウゼンカズラ科)
ここ何年かで長居植物園のジャカダンダの花がよく咲くようになりました。今年は花の時期に植物園案内をできなかったので花を見ることはできませんでしたが、枝先に付いている果実を観察しました。花が目立つので、花を観察しがちですが、葉もとてもきれいな植物です。大きな葉は2回切れ込んだ2回羽状複葉で、一つ一つの小葉は小さいのでよく見てみてください。


◆オオシロカラカサタケ(ハラタケ科)
 マグノリア園の近くのノイバラの仲間を植えている花壇にボール状の傘を上げたオオシロカラカサタケが出ていました。町中の腐植質な場所に生える大きなキノコでよく目立ちます。食べるとひどい中毒を起こすので食べないようにしてください。


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オオシロカラカサタケ