« 植物園案内(12月) | メイン | 子どもワークショップ「はくぶつかん こどもまつり」 »

植物園案内動物・昆虫編(12月)

12月の植物園案内動物・昆虫編は、新型コロナの感染拡大のため残念ながら中止となってしまいました。楽しみにしていただいていたことと思いますので、登場する予定だった虫について、少し写真で紹介したいと思います。冬越しの虫探しの参考になれば幸いです。植物園への入園は可能ですので、人との十分な距離を取りながら、お楽しみいただければと思います。(昆虫研究室・松本)


虫は自分で体温をあげるということができません。そのため多くの虫は寒い冬は物陰に隠れてじっとやり過ごすという作戦をとります。冬の虫の観察のポイントはその隠れ家を探すことにあります。卵で冬を越すもの、幼虫や蛹あるいは成虫で越すもの、グループや種ごとの細かい作戦の違いも観察してみると面白いです。さあ、植物園を歩いてみましょう。


まず木の葉についたクマゼミの抜け殻が見つかりました。
1226m1.jpg


クマゼミが活動するのは夏ですから、その頃からずっとくっついたままだったのでしょう。クマゼミは羽化するときにしっかり体を支えることができるように鋭い爪を持っています。そのため冬になってもあるいは、春になっても抜け殻が落ちずに残っていることがあります。


抜け殻のお腹を見てみると、中あしと後ろ脚の付け根に突起があります。長居公園で見つかるセミの抜け殻でこの突起があるのはクマゼミだけです。
1226m2.jpg


夏の間うるさく鳴いていたクマゼミですが、寒い冬はどうやって過ごしているのでしょう?それを探るのに落ちている枝を拾って調べてみましょう。少しささくれだっているものが見つかりませんか?
1226m3.jpg


これはクマゼミが卵を産んだあとです。クマゼミのメスはお腹の先に硬い産卵管を持っていてこれで、枯れ枝に穴をあけて、底に卵を産みこみます。一つの穴に数個ずつ、少しずつ移動しながら繰り返すので、規則的に傷が付きます。
1226m4.jpg

1226m5.jpg


産卵は夏の終わりに行われて、1年目はそのまま冬を越します。次の年の梅雨時に孵化することが知られています。
1226m6.jpg

1226m7.jpg
(7月に撮影)


卵から成虫になるまで何年かかかるのは確かですが、正確な年数はよく分かっていません。少なくとも3-4年、個体や天候によってばらつきが出てくるのではないかと考えられています。


ツバキなどの常緑樹の葉では、キモグリバエの1種(Rhodesiella sp.)が越冬しているのが目につきます。集団になることが多く、ときに葉っぱを埋め尽くすような大集団になることがあります。
1226m8.jpg


更に歩いているとヒメクダマキモドキが見つかりました。
1226m9.jpg


寒さで動きはとても鈍いですが、確かに生きています。このあたりで見られるキリギリスのなかまでは、成虫で越冬するクビキリギスなどを除いて、最も遅くなで見られる種です。写真はメスで、木の皮の下に扁平な産卵管を差し込んでとても薄い卵を産みます。少し光沢があってとてもきれいな卵です。
1226m10.jpg


園内にたくさん植わっているクスの葉を見ると部分的に茶色く変色しているものがあります。これはクズベニヒラタカスミカメという中国からの外来カメムシが汁を吸った跡です。寒くなるにつれて数を減らすのですが、まだ生きているものが見つかりました。とてもきれいなカメムシですね。
1226m11.jpg


栽培園ではアブラナの仲間も植えられています。これにはモンシロチョウの幼虫がついていることがあります。中齢の幼虫が見つかりましたが、このまま冬を越えることができるのか気になるところです。1226m12.jpg


園内にはところどころエノキがあります。エノキを見つけたらゴマダラチョウの幼虫を探してみましょう。エノキの根もとの落ち葉を少しずつめくっていくと茶色い幼虫が見つかります。正面から見ると、角が生えていてちょっと可愛いですね。
1226m13.jpg

1226m14.jpg
春になるとまたエノキの幹を登って、柔らかい葉を食べてぐんぐん大きくなります。成虫は名前の通り黒と白のマダラの精悍なチョウです。


プラタナスの樹皮の下には少し隙間があっていろいろな虫が隠れています。
プラタナスグンバイというこの植物の汁を吸うグンバイムシがよく隠れています。


1226m15.jpg
小さい虫ですが、虫眼鏡で見るとものすごい精巧なステンドグラスのような体の作りをしています。


また少し大きな隙間にはクロスズメバチのオスが頭を突っ込んでいました。
1226m16.jpg

1226m17.jpg

残念ながら冬は越せないでしょうが、長居公園ではずいぶん久しぶりのクロスズメバチの記録になります。


木の幹にはヒロヘリアオイラガのマユがついていました。幼虫は緑のウミウシみたいな形のトゲトゲのある芋虫で、触ると刺されてとても痛いです。マユのヘリに糸をはってゴミをつけるので、輪郭がぼやけて目立たなくなっています。

1226m18.jpg
成虫が羽化したあとのマユは他の虫の隠れ家にもなっています。クロウリハムシが隠れているのも見つかりました。
1226m19.jpg

1226m20.jpg


木の枝にぶら下がってブラブラしているミノムシも見つかりました。中国から入ったヤドリバエによってとても数が減ったオオミノガのミノです。口のところで糸を枝にぐるぐると巻いてぶら下がっているのが特徴です。

1226m21.jpg


寒い冬ですが、外に出れば隠れている虫が色々見つかります。暖かい日を狙って、探しに出かけましょう。