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長居植物園案内(9月)

新型コロナウイルス感染症拡大が続いており、2021年9月の長居植物園案内も中止でした。2021年9月24日に植物園の見ごろの植物を観察してきたので紹介したいと思います。天気が悪かったり、担当者がワクチンの副反応で不調だったり、予定が入っていたりで報告が遅くなってしまい申し訳ありません。9月24日現在、長居植物園は開園していますので、来園されたみなさんの植物観察に役立てていただけると幸いです。また、行事が再開できるようになったら、植物園案内にお越しください!(横川)
 
 
◆ホルトノキ(ホルトノキ科)
 大阪周辺ではあまり見られない常緑樹です。わかりやすく面白い特徴としては、一年を通して葉の一部が赤く紅葉している点が挙げられます。落葉する前に紅葉するみたいなので、年中、葉を落としているということでしょう。知らない土地でもどこかに赤く紅葉した葉が付いていたら、ホルトノキかその仲間かなぁと推測できる便利な特徴です。
 関連して、ホルトノキの葉とヤマモモの葉がよく似ているという質問をもらうことがあります。ヤマモモはヤマモモ科の常緑樹でホルトノキと全然違うグループの植物なのですが、確かに並べてみるとよく似ています。枝先に葉が集まって付く様子も似ています。見分け方として、ホルトノキは上に書いたように年中赤い葉が混じること、ホルトノキには鋸歯(葉のへりのギザギザ)あるのに対して、ヤマモモには鋸歯があったりなかったりすること、ホルトノキの葉裏の主脈は赤くなりやすいのに対して、ヤマモモの葉裏の主脈は赤くならないことが挙げられます。さらに葉を透かして見てみると違いが明瞭です。ホルトノキの葉よりもヤマモモの葉の方が細かな葉脈まではっきり見えます。

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ホルトノキ。必ず赤く紅葉した葉が付く。


 
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ヤマモモとホルトノキの枝の比較。


 
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ヤマモモとホルトノキの葉の表面の比較。


 
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ヤマモモとホルトノキの葉の裏面の比較。


 
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ヤマモモとホルトノキの葉脈の比較。


 
◆クヌギ(ブナ科)
 9月中旬ごろから11月上旬にかけて、長居植物園では時期を変えながら様々なドングリが見られます。一番早いのはクヌギとアベマキで、ちょうどクヌギのドングリが落ち始めていました。ドングリが落ちる前には木になっていたのですが、どのようになっていたのでしょうか?クヌギの枝の中でドングリを探してみると、枝先ではなく、少し元側に付いています(2枚目の写真の青丸)。クヌギの花は春に咲きますが、実は今年落ちたドングリは、今年咲いた花ではなく、昨年に咲いた花が実ったものなのです。なので、実ったドングリの枝の先には、1年分の枝が伸びているため、大きくなったドングリは枝先ではなく、少し元側に付くのです。クヌギの枝を観察する際には、枝の先もよく見てみてください。枝先には今年咲いた雌花が小さなドングリになって、来年、大きく実るための準備をしています(2枚目の写真の赤丸と3枚目の写真)。この小さなドングリは枝先には必ず付いているわけではありません。今年の春、花が咲いた枝にだけ付くのでよく探してみてください。
 
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長居植物園に落ちていたクヌギのドングリ。


 
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ドングリがなっているクヌギの枝。青丸が今年大きくなったドングリで、赤丸が来年大きくなる予定のドングリ。


 
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来年大きくなる準備中のドングリ。


 
◆ヒガンバナ(ヒガンバナ科)
 ハーブ園の片隅にヒガンバナが咲いていました。よく見ると三色ありますが、これらは別の植物です。赤色はよく知られたヒガンバナです。オレンジ色はショウキズイセン、白色はシロバナマンジュシャゲという植物です。シロバナマンジュシャゲはヒガンバナとショウキズイセンの雑種だとされています。このように並べて植えられていると比較しやすくて便利です。日本のヒガンバナのほとんどは3倍体で結実しないとされており、球根で増えます。中国にはよく結実する2倍体のヒガンバナがあるようで、シロバナマンジュシャゲの起源は中国だと考えられています。花の時期には葉が見当たりませんが、花が咲き終わると細長い葉が出てきます。そのまま6月くらいまで青々としていて、冬から初夏にかけて光合成をして、養分を貯めて花を咲かせる戦略のようです。ヒガンバナが植えられている場所をよく覚えておいて、冬から春にかけて葉を観察してみましょう。
 
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ヒガンバナとその仲間


 
◆アメリカデイゴ(マメ科)
 ヘメロカリス園の近くで赤くて大きな花を咲かせていました。典型的なマメ科の花をひっくり返したような形をしています。花の上の出っ張った部分には雄しべと雌しべがあります。よく見てみると雄しべは10本のうち、1本が短くなっているようです。1本だけ短い雄しべ、どういった意味があるのでしょうか。
花の赤い色は鳥に対してよく目立ち、広告の役割をしていると考えられます。実際に原産地のアメリカ大陸ではハチドリが受粉しているとされています。花はとても丈夫で、ちょっと力を加えたぐらいでは壊れないことも鳥によって受粉される上で重要だと思われます。しかしながら、花に来る動物を調べた研究によると、ミツバチやクマバチの仲間もアメリカデイゴの花にたくさん来ていたようで、これらのハチも受粉に寄与しているようです1。
長居植物園のアメリカデイゴは毎年、結実しています。日本にはハチドリはいませんので、鳥であれば、メジロなどが来て受粉しているのかもしれません。ハチも受粉に寄与しているとのことですが、長居植物園で見る限りは、ミツバチがやってきても、あまり受粉はしてなさそうで、蜜だけを吸っているようでした。花にどんな生き物が来ているのか、受粉をしていそうか、よく観察してみると面白いと思います。

1:Galetto L. et al. 2000. Reproductive Biology of Erythrina crista-galli (Fabaceae). Annals of the Missouri Botanical Garden 87(2):127-145.

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アメリカデイゴ


 
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アメリカデイゴの雄しべと雌しべ。雄しべは10本あり、1本は短い。


 
◆チャンチンモドキ(ウルシ科)
 ボタン園の奥、第三紀植物群のセコイア林の脇に植わっています。今年は果実がよくなっており、果肉たっぷりの大きな果実がたくさん落ちていました。果肉はかなり粘り気があり、哺乳類に種子散布されるのではないかと思います。果実をよく見ると先端のほうに点が5つあります。果実の中にある硬いタネ(内果皮+種子)にも5つの穴があり、これら穴から芽が出ます。
 博物館の常設展の縄文人の食べ物のコーナーでは、遺跡から出土したチャンチンモドキのタネについて少しだけ触れられています。日本の第四紀の地層からはチャンチンモドキはほとんど出ていないようですが、縄文遺跡から出るのは少し不思議です。チャンチンモドキの分布は中国南部や東南アジアですが、日本では鹿児島県と熊本県に自生しています。日本の自生のチャンチンモドキはまだ謎が多く、すごく気になっている植物です。

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チャンチンモドキ


 
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左から完全に果肉が取れたチャンチンモドキの内果皮、チャンチンモドキの果実、内果皮を取り出した果実。