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2022年度 研究助成事業 審査結果

2022年度第1回運営委員会で2022年度研究助成事業の審査が行われ、応募総数8件の申請について審査を行い、以下の5件に研究助成することが決まりました。

1)研究題目:「外来土壌動物ヤンバルトサカヤスデの和歌山県内における侵入状況 」
  申請者:澤畠 拓夫(近畿大学農学部)他
  助成金額:72,000円
  講評:侵入初期の外来生物の分布を把握することは、その対策を考える上でも、もっとも重要な基礎情報となる。その意味で、和歌山県に侵入しつつあるヤンバルトサカヤスデの調査は意義が高いと評価できる。研究計画からは、すでに生息が確認されている周辺のみを調査することになっているが、まだ生息が確認されていない地域を含め、同等の環境を広く調査し、より広域の分布が明らかになることが望ましい。

2)研究題目:「農薬と温暖化の複合影響は、 カエル幼生の捕食回避戦略にどう作用するか」
  申請者:石若 直人(近畿大学大学院農学研究科)他
  助成金額:100,000円
  講評: これからの水田生態系の変化を考える上でたいへん有意義な研究課題であり、ケミカルキューと水温上昇、除草剤の影響の複合要因を検証しようとするところに新規性がある。しかし、ニホンアマガエルが水田で繁殖する場合、現状でもたいへんな高水温にさらされている(5月末くらいだと晴れた日には20~35℃程度の日変動がある)ので、25℃と27℃の恒温条件での比較が温暖化の影響評価になるとは考えにくい。むしろニホンアマガエルの捕食者が水田からいなくなる可能性を考慮して、(ギンヤンマ幼虫の有無)×(除草剤処理の有無)の二元配置で実験を行う方が適当であると考える。また、ギンヤンマのケミカルキューの影響はプロポーションに現れる可能性が高いので、測定部位や解析方法について工夫を要する。

3)研究題目:「外来種ムネアカハラビロカマキリが在来種ハラビロカマキリに与える影響の解明」
  申請者:井岡 来斗(大阪公立大学大学院農学研究科)他
  助成金額:100,000円
  講評:近年日本に侵入したムネアカハラビロカマキリが、近縁の在来種ハラビロカマキリに与える影響を検証する研究であり、環境選好性及び両種の種間相互作用について明らかにする。研究内容そのものは基礎研究であるが、ムネアカハラビロカマキリによる脅威の実態解明および防除につなげるうえで欠かせない知見が得られること、また本研究の研究成果は、近縁在来種への影響が懸念される他の外来種(外来種アカハネオンブバッタと在来種オンブバッタ、外来種アカボシゴマダラと在来種ゴマダラチョウ)にも応用できる可能性があることから、保全上重要な研究といえる。

4)研究題目:「『大阪教育大学長田研究室コレクション』の1970年代大阪府産魚類標本調査」
  申請者:伊崎 永久(倉敷芸術科学大学 生命科学部 生命科学科)他
  助成金額:75,000円
  講評: 近年、淡水魚のいくつかの種では、分類学的な再検討が行われ、これまで一つの種とされていたものが、複数の種に区別されている。大阪教育大学名誉教授の長田芳和博士は、淡水魚類に関する多くの研究成果を発表されており、その当時に収集された標本を再評価することは、分類学のみならず保全生物学においても重要と思われる。特に1970年代の淀川の標本は、淀川の大規模改修前後の魚類相を把握するうえで貴重であり、生息実態の解明に期待したい。

5)研究題目:「滋賀県東部におけるオオガタスジシマドジョウ河川陸封集団と近縁種の共存要因の探索」
  申請者:和田 一歩(近畿大学農学部)他
  助成金額:80,000円
  講評: 生態のほとんどわかっていない河川性オオガタスジシマドジョウの生活史を明らかにする重要な研究である。同所的に生息するニシシマドジョウについても生態は不明な点が多く、比較しながらデータを積み重ねることでシマドジョウ属の共存機構に関する知見が得られることも期待される。以上から、本助成にふさわしい研究といえる。