■夢蛤の今日的価値
日本各地の自然環境は高度経済成長期に大きな開発にさらされました。今日でこそ保全の機運が高まっていますが、環境の保全や復元を実現するには、開発前の過去の記録を知ることが欠かせません。しかしながら、その時期の具体的な記録は非常に限られています。
夢蛤には、貝類を中心として高度経済成長期以前の分布・出現種記録等が多数記載されています。自然史学分野全体を見渡しても、このようなまとまった量の文献は希有であり、貴重な資料といえます。
また、夢蛤には採集記も多数掲載されており、特に沖縄・奄美諸島、小笠原諸島が日本領でなかった頃の風景や風俗が巧みに活写され、歴史・民俗学資料としても大きな価値を持っています。

マゴコロガイが大阪湾尾崎港で採集されたという記事。現在、マゴコロガイはいくつかの都道府県で絶滅危惧種に指定されている(「マゴコロガイ大阪湾に産す」夢蛤68号(1952年)37ページ)