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フィールドシンポジウムと現地見学会の報告

自然生態系を保全していく上で生物相の時間的変遷を忠実に記載するモニタリングは重要である。海岸生物においては和歌山県の田辺湾で3ケ所ものモニタリングサイトがあり、なかでも京都大学が所管する畠島の海岸生物は50年以上のモニタリングの実績をもっている。本シンポジウムでは田辺湾でこれまで行われてきた海岸生物の長期的な調査と、田辺湾とは対照的に都市部周辺に位置する大阪湾の海岸生物の調査を取り上げ、そこから近年の海岸生物相の変遷を特徴付け、その保全的意義を考察することとした。併せて田辺湾内の畠島の海岸生物を観察し、長期モニタリングの現場を参加者全員で共有する機会を設けた。
初日のシンポジウムは京都大学瀬戸臨海実験所内の講義室にて催され、4名の話題提供と総合討論が行われた(参加者24名)。山西良平氏(西宮貝類館)には、大阪湾の海岸生物相の近年の変遷を大阪湾の海況とともに語っていただいた。古賀庸憲氏(和歌山大学)には、環境省モニタリング1000事業のひとつとして実施されている田辺湾奥部の干潟生物の調査結果が披露された。石田惣氏(大阪市立自然史博物館)は、瀬戸臨海実験所前岩礁海岸の貝類群集の25年に亘る調査からこれらの貝類相が近年大きな変容を遂げていることが示された。最後に中野智之氏(京都大学)により、畠島の生物相の長期的な変遷の記録と近年の特徴が語られた。これらの演者の話題からは、海岸生物相の近年の特徴として南方系種の増加と貧栄養性の種の分布拡大が上げられ、これらの要因についての議論が行われた。
2日目の現地観察会(参加者24名)では、田辺湾内の畠島に実験所の船舶で送迎してもらい、実験所の中野智之氏の案内で、全島にわたって潮間帯生物の観察とモニタリングサイトの視察が行われた。観察した時間帯がちょうど干潮時であったので、参加者全員が広く潮間帯を見てその特徴を実感することができた。特にかつて岩礁上に優占していたマガキが衰退し、ケガキが岩礁上を覆う状況を見ることができた。

(報告;和田 恵次)