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2021年度 研究助成事業 審査結果と講評

2021年度第1回および第2回運営委員会で2021年度研究助成事業の審査が行われ、応募総数12件の申請について審査を行い、以下の5件に研究助成することが決まりました。

1)研究題目:「徳島県に自生するユキワリソウ(サクラソウ科)の遺伝的特性と保全上の重要性」
  申請者:山本将也(兵庫教育大学大学院学校教育研究科)他
  助成金額:8万円
  講評:本研究は、近年、絶滅が危惧される日本固有種のユキワリコザクラ(Primura modesta)と関西以西に分布するイシヅチコザクラ(P. modesta var. shikokumontana)の分子系統解析を行い、徳島県のユキワリソウ集団の地域系統を遺伝的に解析することによって種全体の分子系統解析と徳島のユキワリソウの進化的独自性明らかにすることを目的としている。すでに全国の15地点からユキワリソウを採取しており、徳島のサンプリングによって、ユキワリソウ全体の遺伝的系統性を明らかにし、保全に貢献する遺伝的資料が提供される点を評価した。

2)研究題目:「大阪大学 吹田・豊中キャンパス周辺におけるホンドギツネ生息実態の解明」
  申請者:大谷 洋介(大阪大学)他
  助成金額:8万円
  講評:大阪府内の都市域におけるホンドギツネの保全を目的としたテーマであり、保全上の重要性や緊急性が高く、本機構の目的にも合致する研究であると判断した。本助成期間のみに留まらない継続的なモニタリング体制の確立や、隣接する森林域である北摂山地での生息状況との関係の検証など、さらなる取り組みにつながる研究となることを期待する。

3)研究題目:「水田の近代化によるツチガエル早期変態の実態解明」
  申請者:木村 楓(京都大学理学研究科)
  助成金額:8万円
  講評:ツチガエル幼生のフェノロジーに種内で大きな違いがあることの原因究明は、たいへん興味深いテーマである。幼生が育つ水温によって成長速度が大きく異なるだけでなく、チロキシンの分泌が促進されて早期変態を起こす可能性もあるが、もちろん遺伝の影響という仮説も未だ捨てられない。早期上陸型と越冬型のオタマジャクシの形態学的あるいは生理学的特徴の違いについても、あわせて検討されたい。

4)研究題目:「ハルリンドウにおける生活史初期型菌従属栄養性の検証と保全方法の模索」
  申請者:山名  航平(神戸大学理学部生物学科)他
  助成金額:8万円
  講評:リンドウ属の種子発芽直後の初期成長については先行研究もあり、研究計画としては手堅いものと考える。14Cを用いた実験により実証的にフローまでを視野に入れた魅力的なものと考えるが、次の2点を考慮した研究をお願いしたい。1.14Cの実験については様々な制約があり、分析上の困難も伴う。共同研究者や指導者と入念な打ち合わせの上、無理のない実施を検討していただきたい。2.ハルリンドウの絶滅リスクの主要因はシカによる食害という意見が多い。菌従属栄養性に基づく初期成長過程の解明がどのように保全に寄与するのか、研究成果発表時には見解を示していただきたい。

5)研究題目:「福井県中池見湿地に生息するドジョウ2種の共存メカニズムの解明」
  申請者:八嶋 勇気(近畿大学大学院農学研究科)他
  助成金額:8万円
  講評:本研究は、近年の遺伝学的研究によってわかったドジョウ2種(主に東日本に不連続分布するドジョウType Iと日本列島広くに分布するドジョウType II)の関係性を明らかにすることを目指す基礎的研究である。中池見湿地で両種が交配せずに共存していることから生殖的隔離が示唆されるがその具体的な機構についてはまだ何もわかっていない。繁殖生態は生殖的隔離の生じるもっとも重要な要素であるため、その知見を得ることは2種の関係性を探るうえで必要不可欠といえる。また、他地域において2種の交雑例があるが、その理由も不明である。もし2種の交雑が環境改変によるものであれば保全上大きな問題である。本研究をきっかけとして、両種の生殖的隔離機構および、交雑理由の解明につながることを期待したい。