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2023年06月28日

2023年度 研究助成事業 採択決定

2023年度第1回運営委員会で2023年度研究助成事業の審査が行われました。応募総数9件の申請について審査を行い、以下の5件に研究助成することが決まりました。いずれも現代的課題の解明に向けた重要な課題であり、研究終了後、「地域自然史と保全」に研究成果が公表されることを期待しています。

1)研究題目:「森林生態系の物質循環に対する樹幹着生性地衣類の寄与:森林構造の変化に伴う地衣類の存在量およびリターフォールの変化」
  申請者:杉本 廉(神戸大学大学院農学研究科)他
  助成金額:50,000円
  講評:樹幹着生地衣類については種数あるいは群落構成に関する研究は積み重ねられてきたが、動態についてはよく把握されていない。剥落した地衣は生きているが、やがて衰退して消えていく。その量的な把握を主眼とした本研究は興味深い。ぜひ、余力があれば単なる量的な把握の他に以下の観点を加えることを望む。 〇剥落した地衣はイノキュラムとして機能しているのか(子器の形成をし、胞子や分生子を放出しているか)。 〇藻類の脱落は分解に先行するのか。 〇菌体はどの程度長期に生残しているのか。 〇分解菌はなにか。 下にいくほど難度が高いかもしれないが、自然史的な記録も状況を解明するために重要かと思い、記録をお願いしたい。

2)研究題目:「イノシシの掘り起こしが草地の埋土種子に与える効果」
  申請者:梅田 悠起(近畿大学大学院農学研究科)他
  助成金額:50,000円
  講評: 本研究は草地におけるイノシシの掘り起こしが埋土種子に与える影響を評価し、イノシシのエコシステムエンジニアとしての役割を明らかにすることによって、イノシシの生物多様性への関与に関する基盤データ構築を目的としている。応募者らが述べているように、草原の多様性は、イノシシの掘り返しとともに、ニホンジカの採食影響とも関係している。そのため、埋土種子のまきだし実験のデータだけでなく、現地におけるニホンジカの採食影響とイノシシの掘り返しの関係についても、あわせて評価することを望みたい。イノシシ-ニホンジカ-草地植生の多様性を明らかにし、本誌に論文投稿いただくことを期待する。

3)研究題目:「慶野松原のナミキソウ個体群の現状と保全管理手法の提案」
  申請者:谷口 みなみ(兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科)他
  助成金額:100,000円
  講評:淡路島の慶野松原のナミキソウ個体群は、瀬戸内地域に残された数少ない個体群であり、適切な保全が求められています。本申請は、標本データと現地調査によってナミキソウの生育環境と繁殖生態を調べ、本種の絶滅要因を明らかにすることを目指しています。本研究によって、ナミキソウの保全に不可欠な生態的知見が蓄積され、科学的データに基づいた保全管理手法の検討が期待できます。慶野松原では、ナミキソウを含む海岸植生を保全するために、地域住民も参加して様々な取り組みが行われています。本研究の結果から具体的な保全管理手法を提言いただき、貴重な個体群の保全に貢献されることを期待いたします。

4)研究題目:「生石高原の火入れ草原における希少植物の多様性維持機構の解明」
  申請者:朝田 愛理(神戸大学大学院 人間発達環境学研究科)他
  助成金額:91,280円
  講評:シカの採食影響が少なく、火入れで多様性を維持している草原の多様性維持機構の解明は、興味深いテーマです。シカの採食影響がゼロではないようですので、その影響も評価しながら、土壌条件と種多様性の関係性が解析できればよりよいものになると考えます。草原の多様性を維持・管理するうえで火入れが土壌条件をどのように変化させ、草原の種多様性の維持に貢献するのか、逆に、火入れを行った場合にも、種多様性が維持できないのはどのような要因が働いているのか、についても明らかにしていただくことを期待します。

5)研究題目:「ヨシに覆われた放棄ため池の刈り取り管理は水生生物群集の種多様性を回復させるか?」
  申請者:鈴木 真裕(大阪公立大学大学院農学研究科)
  助成金額:97,300円
  講評:里地・里山での田畑の耕作放棄による山林の管理の途絶が、陸域の自然とそこに棲む生物相を大きく変化させたことは多くの研究で明らかにされている。しかし、水域、例えば、管理放棄されたため池とそこから流出する灌漑用水路に成育する水生植物への影響を調べた研究は少なく、水生動物への影響に関する研究例は皆無であるはずである。この申請者は、管理放棄されたため池の水生動物を対象として、管理が継続されているため池と比較し、さらに、管理放棄されたため池で面積を拡大させたヨシ群落を刈り取るという操作も行って、実験的にも管理の放棄/継続の影響を検証しようと企図している。その研究対象と目的の希少さと貴重さ、方法の的確さは大いに評価されるものであり、今後の里山管理のあり方に大きな影響を及ぼす可能性のある、明瞭な成果が得られるものと期待される。

2023年06月23日

フィールド観察会&シンポジウムのお知らせ:大阪府能勢の自然

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大阪府北部に位置する能勢町では、深山、剣尾山、三草山、歌垣山などに囲まれ、古くから里地里山とともに育まれた貴重な自然が残されています。生物多様性のホットスポットでもあり、ヒロオビミドリシジミ、タガメ、ハッチョウトンボ、サギソウ、ユキワリイチゲなど大阪府の他の地域ではほとんど見られなくなった貴重な生物も生息しています。
能勢町では、2019年に策定された「能勢町生物多様性地域連携保全活動計画」に基づき、生物多様性の保全や生態系ネットワークの再生に向けての取り組みが行われており、2021年から能勢町生物多様性基礎調査が行われて、2023年3月には野生動植物376種を掲載した「能勢町の大切にしたい生きもの(能勢町版レッドリスト)」が策定されました。策定にあたっては、関西自然保護機構の運営委員や会員も委員として協力してきました。今回のフィールドシンポでは、能勢町の貴重な自然に触れるとともに、レッドリスト作成の過程で明らかになった生物相の特徴について情報を共有します。フィールド観察会では、講師とともに小型バスで能勢町内をめぐり、大阪府自然環境保全地域特別地区に指定されている地黄湿地などを見学します。シンポジウムでは、「レッドリスト作成の過程で再発見された貴重な能勢の自然」と題して、能勢町の植物、動物、昆虫、総説について5名の講師から話題提供をいただき、総合討論を行います。
 
◆フィールド観察会◆

日時:2023年7月23日(日)9:30~13:00
集合:09:30 能勢電鉄山下駅
場所:大阪府能勢町 地黄湿地、剣尾山周辺

<スケジュール>
9:30 能勢電鉄 山下駅 集合
10:10 地黄湿地到着 講師紹介後、動植物の観察
11:00 歌垣へ移動(マイクロバス)
11:20 剣尾山(冒険の森能勢)到着 説明後、動植物の観察
12:00 昼食(各自持参)
12:50 浄るりシアター(能勢町役場横)へ移動(マイクロバス)
13:15 浄るりシアター着
13:30 シンポジウム開始
16:00 シンポジウム終了
16:15 山下駅へ出発(マイクロバス)
16:45 能勢電鉄 山下駅 解散

申込み:必要 (現地参加の場合にも連絡をお願いします)  
参加費:日本生態学会近畿地区会の公募集会に申請中(採択の場合、無料開催)
集合解散:能勢電鉄山下駅(山下駅⇔観察地⇔浄瑠璃シアター:マイクロバス運行予定)
応募方法:メール(konc@omnh.jp)またはFAX(06-6697-6306)で、①~⑥の項目を明記の上、KONC事務局へご連絡下さい。
 ①氏名 ②生年月日(保険用) ③携帯電話番号(緊急連絡先)
④メールアドレス ⑤日本生態学会の会員か否か ⑥バス乗車希望の有無
申込締切日:2023年7月21日(金)
定員:25名 *応募者多数の場合は、主催団体の会員を優先の上 先着順。

◆シンポジウム◆

「レッドリスト作成の過程で再発見された貴重な能勢の自然」

日時:2023年7月23日(日)13:30~16:00
 場所:淨るりシアター研修室(大阪府豊能郡能勢町宿野30;能勢町役場横)

 開会の挨拶・趣旨説明 平井規央 関西自然保護機構編集委員長(大阪公立大学大学院)
〇「能勢町の自然とその変化」 前田 満
〇「能勢町生きもの調査に参加して」丸山健一郎(大阪自然史センター)
〇「能勢町の植物」 横川 昌史(大阪市立自然史博物館)
〇「能勢町の魚類」 平松 和也(大阪府立環境農林水産総合研究所)
〇「能勢町の昆虫」 上田 昇平(大阪公立大学大学院)
総合討論
 閉会の挨拶 前迫 ゆり 関西自然保護機構会長(奈良佐保短期大学副学長)

★シンポジウムのみの参加で現地集合の場合、当日参加も受け付けいたします(保険はかけません)。

主催:関西自然保護機構 
共催:日本生態学会近畿地区会(申請中)
後援:能勢町