2025年度第1回運営委員会で2025年度研究助成事業の審査が行われました。応募総数6件の申請について審査を行い、以下の4件に研究助成することが決まりました。いずれも現代的課題の解明に向けた重要な課題であり、研究終了後、「地域自然史と保全」に研究成果が公表されることを期待しています。
1)研究題目:「淡路島のため池および農地周辺の水辺における微小水生昆虫の現状把握と普及活動」
申請者:小林 時嘉(兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科)他
助成金額:67,000円
講評:本研究は、淡路島のため池や農地周辺の水辺環境において、微小な水生昆虫の現状把握と普及を目的とした研究である。兵庫県内では水生昆虫相の調査が進んでいる一方で、淡路島は例外的に調査があまり進んでいない地域である。さらに微小水生昆虫には同定が困難な種類も多く含まれており、体長10mmを超えるような種類と比べて情報の蓄積がされていない。一方で多くの種が絶滅危惧種に選定されていることから、淡路島における微小水生昆虫相の把握は喫緊の課題と言える。さらに今後の淡路島の生物相の把握のためにも、農家や行政、次世代への普及も重要となる。こうした理由から、本申請研究は助成にふさわしいといえる。ただし日本生態学会での発表については、本研究の遂行自体と直接関連がないことから、学会への交通費のみ減額とした。
2)研究題目:「野草資源の飼料利用による地域内循環の実現可能性‐中山間地域における畦畔草原の持続的・自立的な管理に向けて‐」
申請者:服部 希実(兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科)他
助成金額:100,000円
講評:人が手間暇をかけて採草することによって維持されてきた畦畔草原は地域の生物多様性を保全するハビタットとして重要であるが,高齢化の問題などと関連して,放置される傾向にある。持続的・自立的な管理の手法として,資源利用が可能になれば,かつて実施されていた循環的農業も視野にいれながら畦畔の活用と保全が実現する。生態系保全と経済的自立両輪の成果を期待したい。
3)研究題目:「京都府内における学校標本の実態の解明」
申請者:松村 直子(きょうと生物多様性センター)他
助成金額:100,000円
講評:歴史の古い学校の理科室等には、しばしば生物標本が所蔵されている。その中には、採集データが付され、過去の地域の自然の情報として貴重なものも少なくない。しかし近年、理科の授業で標本が使われることは少なくなり、新たに標本を作る教員もいなくなる中で、こうした学校標本は次々と廃棄されている。こうした自然史標本の保全は、地域の過去の自然を復元する上で意義があり、それを目標とした学校標本の実態の解明は、地域の自然の保全の基礎として重要であると評価できる。 なお申請ではDNA分析についてふれられ、そのために多額の予算が計上されているが、申請時点で具体的な解析対象が示されておらず、助成金の範囲内で充分な進展は望めないので、今回の助成では考慮していない。
4)研究題目:「都市化に伴う土地利用の変化がハムシ科群集の多様性や種組成に与える影響の評価」
申請者:木村 仙(神戸大学大学院人間発達環境学研究科)他
助成金額:95,340円
講評:本申請課題は、都市化による生息環境の変化が植食性昆虫、特にハムシ類の群集構造および植物との種間関係に与える影響を評価するものであり、都市生態学、種間関係などの分野において学術的意義を有する。ハムシという移動分散能力が低く、種によって食性幅が異なる昆虫群を対象とする点は、都市化への応答を評価する上で適していると考えられる。調査計画やデータ解析についてもよく練られており、実現可能性が十分にあると評価した。本研究により、都市化が種間関係にどのような影響を及ぼすかについて新たな知見が得られることが期待できる。