あくあぴあ連続講座3「タナゴのそだつ川づくり」
企画展「芥川の魚たち」に関連して、芥川とそこにすむ魚についての話と、最新の川づくりの考え方や工法について、川づくりの専門家に解説していただきました。
★講演内容全文を掲載しました★

館長から芥川の説明

萱場センター長から流程と二枚貝の話
★講演内容全文を掲載しました★
日時
2009年9月13日(日) 午後1時30分〜午後3時45分
場所
あくあぴあ芥川 3階 多目的ホール
講師
萱場祐一((独)土木研究所 自然共生研究センター長)
申し込み
不要 先着40名
参加費
無料
要旨
あくあぴあ芥川館長田口から、芥川の自然や水質などの現状を説明後、萱場センター長から川の流呈(上流・中流・下流の特徴)と水生生物の生息モデルの説明がありました。本題のタナゴについては、タナゴが産卵する二枚貝の生息する場所の特徴を解析した結果を報告。水辺の生き物、特にタナゴと二枚貝には川辺の撹乱が必要であることをわかりやすく説明していただきました。

館長から芥川の説明

萱場センター長から流程と二枚貝の話
★講演全文★
●芥川ってどんな川(田口圭介)
ランドサット、国土地理院航空写真で芥川の位置関係を確認。縦断的には原までは急勾配、原で勾配がゆるくなり、摂津峡で再び急になる。川底には石や砂が詰まった状態で下流では石が転がらず、水生生物が少なくなっている。淀川合流から摂津峡までに堰と落差工が約10個あり、魚の行き来が阻害されている。市民がアユを確認し、行政と市民で魚道づくりを始め、部会をつくり、土嚢で魚みちを作った。この土嚢の魚みちをヒントにデルタフリー(ブロック)で門前橋に魚みちを作った。行政と一緒に障害もなんとかしていこうと活動してきた成果を受けて、国土交通省の管轄区域である下流の一番大きな落差工に魚道をつくる計画が進んでいる。水質は現在BODで1~2ppm程度である。1974年以前はひどく、年平均で30ppm以上あった。高槻の人口が2万以上増えた時代なので、下水処理が追いつかず、工場排水や家庭排水が芥川に流入していた。山川はあくあぴあよりもちょっと下流に流入する川だが、ひどい状態だった。平成4年でもまだ一日に200kg以上の汚濁物質が流入していた。今はかなり改善されている。そんな芥川での魚の状況は、たかつき環境市民会議のデータでは、昨年でも28種類が確認されており、淀川の魚であるウツセミカジカやカワヒガイも確認されている。タイリクバラタナゴ、トウヨシノボリはこの2年見つかっていない。あくあぴあの2階に展示しているウナギは門前橋で見つかった。ギギも最近は見られてない。2007年のデータを場所ごとに見ると、芥川大橋が20種と多い。カネヒラは鷺打橋のところしか見つかっていない。オオクチバス、ブルーギルは下流で常に見つかっている。少し前に芥川の下流で貝が歩いた道筋を発見して、喜んだことがある。その後、環境市民会議の観察会でイシガイやトンガリササノハガイなどの二枚貝が見つかっている。芥川下流域でみつかっているタナゴの仲間(カネヒラ)が繁殖していくためには、二枚貝の生息が不可欠の条件である。本日の萱場祐一先生の講演をヒントに芥川でタナゴが育つ川づくりが進められたらと思っている。
なお、今日の連続講座は企画展「芥川の魚たち」の関連講座である。
タナゴが育つ川づくり(萱場祐一)
自然共生センターではタナゴが産卵するイシガイ類の調査をしている。イシガイ類とそれに産卵するタナゴは減少してきており、近い将来いなくなることが懸念されている。
センターでは人工の実験河川を使って研究をしていて、3本の川と3つの池がある。長さは800m。川の中は人工的にコンクリートを設置した区間、植物が繁茂する区間等がある。特徴の一つは上流にゲートがあり流量調節ができることで、川の流量を変化させたらどうなのか、ということを調べている。実際の河川では比較実験ができないのでこのような施設が必要である。実験河川にコンクリートを張ったり、水があふれる区間を作ったり、わんど区間をつくったりして、変化を観察している。木曽川、新境川と実験河川がつながっているので、魚が自由に行き来でき、魚は25種ぐらいいる。イチモンジタナゴもいて、生物相は豊である。昨年3mぐらいの落差が洪水のためにでき、魚が全く入ってこなくなった。木曽川が洪水になって落差を魚が上れるようになってやっと魚が入ってきたので、実験できるようになった。落差があると魚が行き来できないとあちこちで言ってきたが、身をもって体験できた。
実験河川でアユを放すとアユが食べることで川底がきれいになる。入ってくる汚濁物質が多いこともあるが、川底にたまっているものを食べる生物が少なくなっているということもいえる。小さい生物の力は人が思うよりも大きく、生物がすむことによって環境が変わっていく。
自然共生センターは河川環境楽園の中に位置している。最も大きな施設は世界淡水魚園水族館。共生センターはアユなどの食べられる生物を研究していたが、最近は貴重種や多様性を研究している。自然発見館という資料館もあり、国営公園になっている。
木曽川に住む有名なタナゴはイタセンパラだが、絶滅寸前である。イタセンパラは乱獲の危険性があり情報管理が難しいため話をすることができないので、今日はタナゴが産卵するイシガイの話を中心に行う。
流程(上流、中流、下流の特長)について。上流は水がきれい、冷たい、澄んでいる(栄養塩が少ない)、岩が多い、ステップ&プール、川幅が狭く渓畔林があり日当たりが悪い。エサがどこから供給されるかが重要である。エサには2種類あり、ひとつは川の中の藻で、中下流の特徴である。上流は川の中での光合成にはいい環境ではなく、エサは川の周囲からの落ち葉や落下昆虫など、川の外から供給物される。例えば上流の魚といえばサクラマスやオショロコマなど、落ちてくる昆虫を食べている。流路工を作ると渓畔林が川辺から離れるので落下物が減り、流れが速くて淵の石の間などにたまった葉がなくなり、エサがなくなる。CPOM(粗粒状有機物、落葉落枝など)を「かじる生き物」がたべ、その生き物がさらに大型動物のえさになる。落葉から染み出す栄養を食べる生き物がまたエサになる。
中流は石が多くなり、さらさらとした瀬と曲がったところの淵がある。川原はツルヨシなどの草本が生え、水が多くなると洗い流され、曲がっていることによってできる淵が生物の生息環境として需要である。曲がった流れには遠心力ができる。表面の流れと底の流れがあり、表面の方が流れが速い。速い方で遠心力が大きくなるので急には曲がれず、表面は外向きにながれ、底は内面向きに流れるネジレが起こるために、底が浸食されて淵になる。浸食によって外岸側は岩が露出し、入り組んだ水際ができ、入り江部は流速が下がるために非常にいい環境ができる。岸の形は多様な環境を作り出す原動力になる。内岸側はツルヨシが繁茂し、その下がえぐれ、ツルヨシの茎がオーバーハングするため流れが遅くなる。流れの速いところは1m/sぐらいでオイカワが生息するが、ツルヨシの下は流れが遅くなり、底質は砂が多くなり、カワムツが見られる。カワムツはちょっと暗めのところで生息しており、砂の好きなカマツカなども生息する。
もっと下流にいくと、例えば長良川では単列交互砂州というダイナミックな地形になる。空からみると大きな川では規則的な模様が見える。砂州の前縁は瀬になり、カーブの落ち込みでは淵になる。川の地形が複雑になるのは川の曲がり、すなわち砂州地形である。砂州の前縁には水制が見られる。昔はこのような場所の局所的な洗堀をいかになくすかが土木行政の大きな課題であった。瀬も淵もない真平らな川を作ることが命題だったが、平成2年ごろから多自然型川づくりが始まり、瀬と淵を重要視した川作りが進められるようになった。
川幅が広がると複列砂州など、網目状に広がる川になっていく。砂の材料や水流を変えて、どんな川になるかを研究していた。昔はどうやって洗掘を防ぐかを調べていたが、今ではどうやって瀬と淵を作るかが大切になっている。低水路の中でも低いところに沿って平常時の水道ができる。川幅が狭いと砂州はできない。ある程度の川幅があれば単列、もと広がると複列交互砂州になる。川の見方にはいろいろあるが、近づいて生物を捕る見方は局所的な見方であり、もうひとつは一歩引いて遠くから見たときで、洪水のときの流れ、そのときの地形が見えるので、川を理解しやすい。
中流のエサはどこから供給されるか。川底に日射が入り、栄養塩があるので藻が生えやすい。川岸に河畔林があっても川の中央では林の影響を受けない。外部から入る落葉などではなく、川の中で生産される藻が重要なエサである。日本の川は諸外国に比べると透明だが、外国では濁っていて川底まで光が届かない。扇状地が多く、礫がごろごろして水深が浅い川が多い。アユが食文化として発達したのは、日本の川には石が多く、日光がとどき、藻が生える川が身近に多くあったから。魚以外で藻を食べる昆虫もたくさんいて、例えばヤマトビケラは石の巣を背負って藻を食べる。これが多いと石の表面がぬるぬるしない。
中流から下流の間の勾配の変化点では、突然水深が大きくなり、州が水底に水没する。したがって、光が川底に届かない。生物のエサとしては、上流は落下物、中流は川底の藻であった。では下流は?である。本流での餌生産は少ないが、本流の横にある池状の水域。すなわち、ワンドやたまりは生息場として重要になる。木曽川はオランダ人のデレーケによって水制が作られ、ワンドができた。川の両側には本来湿地や氾濫源環境があった。水田や湿地、ワンドにはイシガイやドブガイが生育している。
●河川連続帯仮説(1980)エサ資源のこと
●中規模かく乱仮説(1978)洪水が大事なこと
●洪水パレス仮説(1978)洪水が大事なこと
底生動物の分類について
①摂食機能群
破砕食者(シュレッダー)、刈り取り食者(グレーザー)、捕食者、ろ過食者、堆積物採集食者(コレクター)。これの構成が上流から下流になるにつれて変わっていく。これが河川連続帯仮説で、上流にはシュレッダーが多い。中流になるとグレーザーが増え、下流になるとコレクターが増える。しかし長い川では下流でプランクトンが増えるが、日本の川は短いので、河川性のプランクトンが発生しない。では何をたべるかというと、日本のコレクターはワンドや水田で発生したプランクトンを食べる。水田は上流から水を取り浅く引き伸ばすのでプランクトンが発生し、用排水路から川へ入り、下流の生物のエサになる。
②どう動くか
動き遅い→造網型、固着型、堀潜型、携巣型、ほふく型、遊泳型→動く速い
ここに着目したのが中規模撹乱仮説で、洪水の頻度が少なすぎたり多すぎたりすると生物の種類が少なくなるという説。洪水がないと動かない生物ばかりになり、洪水がありすぎると動く生物ばかりになる。中ぐらいが最も多様性が高くなる。 最近の川では樹林化が問題で、川原に住む生物がいなくっている。洪水が多い場合は川原、ほどよく洪水があればパッチ場に草本や潅木がある程度だが、洪水がないと樹木で覆われて多様性が少なくなる。
以上をまとめると、上流は岩場になっていて、水の流れがゆっくりになったりステップになったりする環境で、氾濫原がないので洪水は重要でない。中流では河原がどうなるかは洪水の役割が重要。もっと下流では瀬と淵は重要でなく、ワンドやタマリが重要で、洪水によってつながることがさらに重要である。今日話しをするイシガイ類にとってはこの中流と下流の間ぐらいが重要である。
絶対絶命、氾濫原環境のイシガイ類!
●農業用排水路について
イシガイ類はカワシンジュガイ科とイシガイ科に分かれる。イシガイ科は日本には16種類で同定は簡単。アメリカでは100種もあるので難しい。
イシガイにはタナゴ類が産卵する。イタセンパラでは秋に産卵し、翌春に仔魚が出てくる。イシガイは卵ではなく幼生を放流し、それが魚に寄生し、行った先で脱落して着底する。タマリが本川と全くつながってないとか、落差があって上ってこられないような場所では、イシガイの子どもが分布域を広げられず、高齢化していく。イシガイがいるということは水域がつながっているということを意味し、タナゴの生息する可能性を担保しているといえる。日本の低平地の発達が良いとタナゴが生息する。例えば北九州は平野が広いのでタナゴがいるが、南九州では低平地が狭くタナゴがあまり確認されない。関東平野、濃尾平野、大阪平野などの広い平野においてタナゴがいるかいないかは、低平地の健全をはかる指標である。
自分はオバエボシガイ、カタハガイ、マツカサガイ、トンガリササノハガイの4種の分布について調べている。これらは西日本中心に分布していて、昔はたくさんいたと思われる。4種とも絶滅危惧種で、環境省のランクではオバエボシがⅡ類、それ以外が準絶滅危惧。地方版でも絶滅危惧に指定されている。なぜ特にオバエボシとカタハが減っていくのか。岐阜県関市で地域の生息調査をした。そこでは貝が生息している場所が改修されてしまうことになっていた。排水路は地域の問題があり、改修はさけられず対策が必要になったが、貝の生息に必要な環境条件があまりよくわかっていない。生息している用排水路と生息していないところの違いはなにか、水路の中のどんな環境に住んでいるのか、を調べてみた。
縦断方向1mごとに縦断側線を張り、側線上に方形区をつくり、流速、水深、底質の微環境を測り、水深、流速、川底のスコアを調べた。水深があれば流速がはやく、川底の材料も大きい。環境条件が似ているところをまとめる主成分スコアにしてみた。住んでいるところのスコアを足し合わせると、オバエボシは流心部、カタハガイは水際、マツカサとトンガリは中間に当てはまることがわかった。川の改修を行うと中間領域は残るが、すごく速い場所やすごく遅い場所がなくなる。人の手を入れると極端な環境がなくなり、平均化されてしまう。つまり、オバエボシとカタハガイの環境がなくなってしまう。4種を生息させるためには、川底に土砂あり、横方向と縦方向に速いところ、遅いところなどの環境の差があるかどうか、が必要であることがわかった。そこで保全のため貝を避難させ、調査に基づいた工法で改修し、地域の子どもなどに呼びかけて避難個体を再放流し、小学生を引き込みながらモニタリングしている。貝のための対策としては、川の中に突起を出すことで流れの幅を狭め、横断方向に流れの速さを変えた。縦断的には横板を入れ、板の前後に礫を入れて、瀬を作った。横断、縦断方向に流れが変化をもつようにした。オバエボシとカタハガイは順調に生育している。ものが引っかかったり、草刈などの手入れが必要なので地元には嫌がられる。メンバーは地元で熱心に活動する人や、共生センターのスタッフなどと連携している。ただ、改修した水路の下流は落差があったり、三面張りだったりで貝の生息は不可能。地元と共生センターと岐阜県の研究所など、いろいろな人たちが役割分担しながら保全活動をしているのが、関市モデルとなっている。地域の保全活動にどんな団体とチームを組むかが重要。地元があって、研究機関があって、タイアップして行うのがいい。
●河川本流沿いのワンドとタマリについて
ワンドはドブガイ、イシガイ、トンガリササノハガイが対象。木曽川はイタセンパラが生息しているが、絶滅に瀕していて見つけるのが困難になってきている。ではイシガイ類はなぜ減っているか。木曽川は1970年代砂州が広がる撹乱される川だったが、浚渫や土砂供給の減少により河床低下し、裸地が取り残され、樹林化してきた。どこの川でも同じだが、生物多様性が減少している。イタセンパラは底をつついて付着藻類を食べるので、水深が浅くて底に藻が生える場所に生息する。
植生に被覆された氾濫原は陸域の95%にもなる。ワンドの高さはちょっとずつ上がっている。一方、川底の最深部では50年で4m以上下がっている。現在でも下がり続け、将来的にももっと下がっていくだろうと思われている。
調査地は木曽川の中流部で、平常時も本川とつながっているのをワンド、平常時は本川と離れているのをたまりと呼ぶ。
・洪水撹乱とイシガイ類の生息とは関係するか?
調査はワンドにコドラートを設置して定量調査を行う。洪水撹乱の評価は、たまりはつながったら撹乱、ワンドは水位が5cm上昇したら撹乱とし、撹乱頻度を定義する。1996年から2006年の撹乱頻度を68水域で調査した。ドロドロで足がはまって大変な作業である。31水域でイシガイ類が生息していた。ワンドはすべて、タマリは37のうち23で生息していた。つまり川とつながってたほうが良い。860コドラートのなかでは569地点で、トンガリ37%、イシガイ35%、ドブガイ28%。これでもかなり少ない印象。
1年に5回以上洪水がある場所、本川に近いところで生息数が多い。生息適地を50%確立でイシガイがいるところと定義(およそ年5回以上冠水するところ)、は1962年以降、減少し続けている。ワンド、生息たまり、非生息たまりの計9箇所にイシガイなどをナンバリングして沈め、どれぐら死ぬか、生きていれば成長率を実験した。環境指標として水質、水温、EC,DO,有機物、酸化還元電位などを調べた。ワンド、生息たまりではほぼ生残した。非生息たまりではどんどん死んだので、環境に問題がある。非生息タマリは底の有機物がワンドの10倍ある。落葉が分解せずに残り、嫌気的になり、貧酸素水塊が発生する。水面比高差が上がると撹乱頻度が下がり、樹林化し、落葉が入り、洪水がないので水が入れ替わらず落葉も流れない、分解されず、嫌気化し、貝がいなくなる。貝は泥が高くなると沈んでいくので、自分の体を持ち上げるためのエネルギーが多く必要になる。さらに宿主が少なくなる。
こうなってしまったタマリをどうやって再生するかというと、河原を切り下げて、年5回ぐらい冠水する河床を作って人工ワンドを作れと良いだろう。
河川は水田に比べると自然再生をやりやすく、河床が下がっても希望のもてる事業ができると思う。水田、用排水路はより危ない状況にあり、どうやって残すかが非常に重要である。仕組みづくり、予算などのハードルがある。名古屋でCOP10がある。ボンで行われたCOP9の中では、都市域のかける負荷が大きい地方自治体の役割が重要で、地域の環境を守ることを戦略的に進めることが必要である。高槻市は取り組みが進んでいるし芥川を中心とする皆さんがいるので期待が持てる。日本の多くの市町村で土地のオーナーがいる場所での環境保全は難しい。小学校と一緒に長い目で地元づくりをすることも重要であろう。
会場から
Q.)実験でネットに貝を入れて沈めているが、貝の移動性の影響はないのか。
萱場)ゆっくりでも移動するのは間違いなく、移動能力も種によって違うのだが、実験なので、そこまでできてない。先ほどの実験はワンド単位であるので、移動できたところで、どこへ移動しても生きられないと思われる。ネット内は本来の生息環境ではないが、比較としてみてもらいたい。
Q.)貝ってかなり移動するもんだな、という思いがある。
萱場)マーキングしているので、移動してもわからなくなることはない。
Q.)貝の食べているものの変化が影響するのでは?
萱場)何を食べているかというと、たまりや水田で発生するプランクトンであることは間違いない。最近では川底に生えている藻であるとも言われている。吸い込んでいるものの中の何が体を構成しているかはわかっていない。昔の砂州の環境ではプランクトンが発生しにくいので、川底の藻を食べているかもしれない。実験ではタマリの水が洪水によって入れ替わり、窒素やリンが豊富になったら生産性があがり、徐々に使い果たしてエサが少なくなるのかもしれない、ということはある。
Q.)樹林化した土砂をとりはらうと、より河床低下が起こるのではないか?
萱場)もともとの河原は上流からの土砂が河原と置き換わり、下流に流されということが起こっていたが、現在はずっと同じ材料が残っているので、下流への土砂供給の材料にはなっていない。ここを切り取ってもアクティブでなければ下流への影響はない。アユの産卵場のために陸上を切り取ることがあるが、その場合には下流の河床が下がることはあり、よく考える必要がある。
Q.)わざわざ切り取らなくても、年に何回かの人工的な洪水を起こせば解決するのではないか?
萱場)ダムがある場所からどの程度はなれているか、ダムに活用できる貯水量があるかどうか、といういろいろな要因があるので、現在の実験地ではダムから離れているので、例えば、ダムが空になるぐらいの水を流さないと冠水しないだろう。
Q.)イシガイを水槽で飼育すると、3ヶ月ぐらいで死んでしまう。部屋の中と日光の当たる場所では寿命が違う。イシガイを長く飼う方法を教えてもらいたい。
萱場)室内はダメ。普通の水産試験場は室内水槽なので、悩んでいるところが多い。光合成による付着藻類など、エサの関係があると思うが、よくわからない。広めの屋外水槽で粗放的に飼うのがいいんじゃないだろうか。水族館でも苦労しているはず。意外とストレスに弱く、人が触ると成長が止まるという人もいる。どの程度のストレスで影響がでるかはよく分からない。
Q.)芥川での調査では、小さな貝が捕れていない。貝の寿命は?
萱場)10年とかじゃないかと思う。ある川で調べているドブガイは稚貝がいなくて、洪水の時にドブガイが成貝で流れてくるという人もいる。寄生時代、稚貝時代の生活はよくわかってない。日本の淡水貝の研究者は5人もいないのでは?
Q.)アユについて、堺の川の河口には砂場がなく、アユは上らないと言われている。河口に砂場がないと遡上しないのか?
萱場)アユは意外と水が汚くても大丈夫。溶存酸素と水温さえクリアできればどの水域にも入ってくる。いったん増えると増えだすと思う。産卵場があるかどうか。コイがたくさんいるのはよくない。
なお、今日の連続講座は企画展「芥川の魚たち」の関連講座である。
タナゴが育つ川づくり(萱場祐一)
自然共生センターではタナゴが産卵するイシガイ類の調査をしている。イシガイ類とそれに産卵するタナゴは減少してきており、近い将来いなくなることが懸念されている。
センターでは人工の実験河川を使って研究をしていて、3本の川と3つの池がある。長さは800m。川の中は人工的にコンクリートを設置した区間、植物が繁茂する区間等がある。特徴の一つは上流にゲートがあり流量調節ができることで、川の流量を変化させたらどうなのか、ということを調べている。実際の河川では比較実験ができないのでこのような施設が必要である。実験河川にコンクリートを張ったり、水があふれる区間を作ったり、わんど区間をつくったりして、変化を観察している。木曽川、新境川と実験河川がつながっているので、魚が自由に行き来でき、魚は25種ぐらいいる。イチモンジタナゴもいて、生物相は豊である。昨年3mぐらいの落差が洪水のためにでき、魚が全く入ってこなくなった。木曽川が洪水になって落差を魚が上れるようになってやっと魚が入ってきたので、実験できるようになった。落差があると魚が行き来できないとあちこちで言ってきたが、身をもって体験できた。
実験河川でアユを放すとアユが食べることで川底がきれいになる。入ってくる汚濁物質が多いこともあるが、川底にたまっているものを食べる生物が少なくなっているということもいえる。小さい生物の力は人が思うよりも大きく、生物がすむことによって環境が変わっていく。
自然共生センターは河川環境楽園の中に位置している。最も大きな施設は世界淡水魚園水族館。共生センターはアユなどの食べられる生物を研究していたが、最近は貴重種や多様性を研究している。自然発見館という資料館もあり、国営公園になっている。
木曽川に住む有名なタナゴはイタセンパラだが、絶滅寸前である。イタセンパラは乱獲の危険性があり情報管理が難しいため話をすることができないので、今日はタナゴが産卵するイシガイの話を中心に行う。
流程(上流、中流、下流の特長)について。上流は水がきれい、冷たい、澄んでいる(栄養塩が少ない)、岩が多い、ステップ&プール、川幅が狭く渓畔林があり日当たりが悪い。エサがどこから供給されるかが重要である。エサには2種類あり、ひとつは川の中の藻で、中下流の特徴である。上流は川の中での光合成にはいい環境ではなく、エサは川の周囲からの落ち葉や落下昆虫など、川の外から供給物される。例えば上流の魚といえばサクラマスやオショロコマなど、落ちてくる昆虫を食べている。流路工を作ると渓畔林が川辺から離れるので落下物が減り、流れが速くて淵の石の間などにたまった葉がなくなり、エサがなくなる。CPOM(粗粒状有機物、落葉落枝など)を「かじる生き物」がたべ、その生き物がさらに大型動物のえさになる。落葉から染み出す栄養を食べる生き物がまたエサになる。
中流は石が多くなり、さらさらとした瀬と曲がったところの淵がある。川原はツルヨシなどの草本が生え、水が多くなると洗い流され、曲がっていることによってできる淵が生物の生息環境として需要である。曲がった流れには遠心力ができる。表面の流れと底の流れがあり、表面の方が流れが速い。速い方で遠心力が大きくなるので急には曲がれず、表面は外向きにながれ、底は内面向きに流れるネジレが起こるために、底が浸食されて淵になる。浸食によって外岸側は岩が露出し、入り組んだ水際ができ、入り江部は流速が下がるために非常にいい環境ができる。岸の形は多様な環境を作り出す原動力になる。内岸側はツルヨシが繁茂し、その下がえぐれ、ツルヨシの茎がオーバーハングするため流れが遅くなる。流れの速いところは1m/sぐらいでオイカワが生息するが、ツルヨシの下は流れが遅くなり、底質は砂が多くなり、カワムツが見られる。カワムツはちょっと暗めのところで生息しており、砂の好きなカマツカなども生息する。
もっと下流にいくと、例えば長良川では単列交互砂州というダイナミックな地形になる。空からみると大きな川では規則的な模様が見える。砂州の前縁は瀬になり、カーブの落ち込みでは淵になる。川の地形が複雑になるのは川の曲がり、すなわち砂州地形である。砂州の前縁には水制が見られる。昔はこのような場所の局所的な洗堀をいかになくすかが土木行政の大きな課題であった。瀬も淵もない真平らな川を作ることが命題だったが、平成2年ごろから多自然型川づくりが始まり、瀬と淵を重要視した川作りが進められるようになった。
川幅が広がると複列砂州など、網目状に広がる川になっていく。砂の材料や水流を変えて、どんな川になるかを研究していた。昔はどうやって洗掘を防ぐかを調べていたが、今ではどうやって瀬と淵を作るかが大切になっている。低水路の中でも低いところに沿って平常時の水道ができる。川幅が狭いと砂州はできない。ある程度の川幅があれば単列、もと広がると複列交互砂州になる。川の見方にはいろいろあるが、近づいて生物を捕る見方は局所的な見方であり、もうひとつは一歩引いて遠くから見たときで、洪水のときの流れ、そのときの地形が見えるので、川を理解しやすい。
中流のエサはどこから供給されるか。川底に日射が入り、栄養塩があるので藻が生えやすい。川岸に河畔林があっても川の中央では林の影響を受けない。外部から入る落葉などではなく、川の中で生産される藻が重要なエサである。日本の川は諸外国に比べると透明だが、外国では濁っていて川底まで光が届かない。扇状地が多く、礫がごろごろして水深が浅い川が多い。アユが食文化として発達したのは、日本の川には石が多く、日光がとどき、藻が生える川が身近に多くあったから。魚以外で藻を食べる昆虫もたくさんいて、例えばヤマトビケラは石の巣を背負って藻を食べる。これが多いと石の表面がぬるぬるしない。
中流から下流の間の勾配の変化点では、突然水深が大きくなり、州が水底に水没する。したがって、光が川底に届かない。生物のエサとしては、上流は落下物、中流は川底の藻であった。では下流は?である。本流での餌生産は少ないが、本流の横にある池状の水域。すなわち、ワンドやたまりは生息場として重要になる。木曽川はオランダ人のデレーケによって水制が作られ、ワンドができた。川の両側には本来湿地や氾濫源環境があった。水田や湿地、ワンドにはイシガイやドブガイが生育している。
●河川連続帯仮説(1980)エサ資源のこと
●中規模かく乱仮説(1978)洪水が大事なこと
●洪水パレス仮説(1978)洪水が大事なこと
底生動物の分類について
①摂食機能群
破砕食者(シュレッダー)、刈り取り食者(グレーザー)、捕食者、ろ過食者、堆積物採集食者(コレクター)。これの構成が上流から下流になるにつれて変わっていく。これが河川連続帯仮説で、上流にはシュレッダーが多い。中流になるとグレーザーが増え、下流になるとコレクターが増える。しかし長い川では下流でプランクトンが増えるが、日本の川は短いので、河川性のプランクトンが発生しない。では何をたべるかというと、日本のコレクターはワンドや水田で発生したプランクトンを食べる。水田は上流から水を取り浅く引き伸ばすのでプランクトンが発生し、用排水路から川へ入り、下流の生物のエサになる。
②どう動くか
動き遅い→造網型、固着型、堀潜型、携巣型、ほふく型、遊泳型→動く速い
ここに着目したのが中規模撹乱仮説で、洪水の頻度が少なすぎたり多すぎたりすると生物の種類が少なくなるという説。洪水がないと動かない生物ばかりになり、洪水がありすぎると動く生物ばかりになる。中ぐらいが最も多様性が高くなる。 最近の川では樹林化が問題で、川原に住む生物がいなくっている。洪水が多い場合は川原、ほどよく洪水があればパッチ場に草本や潅木がある程度だが、洪水がないと樹木で覆われて多様性が少なくなる。
以上をまとめると、上流は岩場になっていて、水の流れがゆっくりになったりステップになったりする環境で、氾濫原がないので洪水は重要でない。中流では河原がどうなるかは洪水の役割が重要。もっと下流では瀬と淵は重要でなく、ワンドやタマリが重要で、洪水によってつながることがさらに重要である。今日話しをするイシガイ類にとってはこの中流と下流の間ぐらいが重要である。
絶対絶命、氾濫原環境のイシガイ類!
●農業用排水路について
イシガイ類はカワシンジュガイ科とイシガイ科に分かれる。イシガイ科は日本には16種類で同定は簡単。アメリカでは100種もあるので難しい。
イシガイにはタナゴ類が産卵する。イタセンパラでは秋に産卵し、翌春に仔魚が出てくる。イシガイは卵ではなく幼生を放流し、それが魚に寄生し、行った先で脱落して着底する。タマリが本川と全くつながってないとか、落差があって上ってこられないような場所では、イシガイの子どもが分布域を広げられず、高齢化していく。イシガイがいるということは水域がつながっているということを意味し、タナゴの生息する可能性を担保しているといえる。日本の低平地の発達が良いとタナゴが生息する。例えば北九州は平野が広いのでタナゴがいるが、南九州では低平地が狭くタナゴがあまり確認されない。関東平野、濃尾平野、大阪平野などの広い平野においてタナゴがいるかいないかは、低平地の健全をはかる指標である。
自分はオバエボシガイ、カタハガイ、マツカサガイ、トンガリササノハガイの4種の分布について調べている。これらは西日本中心に分布していて、昔はたくさんいたと思われる。4種とも絶滅危惧種で、環境省のランクではオバエボシがⅡ類、それ以外が準絶滅危惧。地方版でも絶滅危惧に指定されている。なぜ特にオバエボシとカタハが減っていくのか。岐阜県関市で地域の生息調査をした。そこでは貝が生息している場所が改修されてしまうことになっていた。排水路は地域の問題があり、改修はさけられず対策が必要になったが、貝の生息に必要な環境条件があまりよくわかっていない。生息している用排水路と生息していないところの違いはなにか、水路の中のどんな環境に住んでいるのか、を調べてみた。
縦断方向1mごとに縦断側線を張り、側線上に方形区をつくり、流速、水深、底質の微環境を測り、水深、流速、川底のスコアを調べた。水深があれば流速がはやく、川底の材料も大きい。環境条件が似ているところをまとめる主成分スコアにしてみた。住んでいるところのスコアを足し合わせると、オバエボシは流心部、カタハガイは水際、マツカサとトンガリは中間に当てはまることがわかった。川の改修を行うと中間領域は残るが、すごく速い場所やすごく遅い場所がなくなる。人の手を入れると極端な環境がなくなり、平均化されてしまう。つまり、オバエボシとカタハガイの環境がなくなってしまう。4種を生息させるためには、川底に土砂あり、横方向と縦方向に速いところ、遅いところなどの環境の差があるかどうか、が必要であることがわかった。そこで保全のため貝を避難させ、調査に基づいた工法で改修し、地域の子どもなどに呼びかけて避難個体を再放流し、小学生を引き込みながらモニタリングしている。貝のための対策としては、川の中に突起を出すことで流れの幅を狭め、横断方向に流れの速さを変えた。縦断的には横板を入れ、板の前後に礫を入れて、瀬を作った。横断、縦断方向に流れが変化をもつようにした。オバエボシとカタハガイは順調に生育している。ものが引っかかったり、草刈などの手入れが必要なので地元には嫌がられる。メンバーは地元で熱心に活動する人や、共生センターのスタッフなどと連携している。ただ、改修した水路の下流は落差があったり、三面張りだったりで貝の生息は不可能。地元と共生センターと岐阜県の研究所など、いろいろな人たちが役割分担しながら保全活動をしているのが、関市モデルとなっている。地域の保全活動にどんな団体とチームを組むかが重要。地元があって、研究機関があって、タイアップして行うのがいい。
●河川本流沿いのワンドとタマリについて
ワンドはドブガイ、イシガイ、トンガリササノハガイが対象。木曽川はイタセンパラが生息しているが、絶滅に瀕していて見つけるのが困難になってきている。ではイシガイ類はなぜ減っているか。木曽川は1970年代砂州が広がる撹乱される川だったが、浚渫や土砂供給の減少により河床低下し、裸地が取り残され、樹林化してきた。どこの川でも同じだが、生物多様性が減少している。イタセンパラは底をつついて付着藻類を食べるので、水深が浅くて底に藻が生える場所に生息する。
植生に被覆された氾濫原は陸域の95%にもなる。ワンドの高さはちょっとずつ上がっている。一方、川底の最深部では50年で4m以上下がっている。現在でも下がり続け、将来的にももっと下がっていくだろうと思われている。
調査地は木曽川の中流部で、平常時も本川とつながっているのをワンド、平常時は本川と離れているのをたまりと呼ぶ。
・洪水撹乱とイシガイ類の生息とは関係するか?
調査はワンドにコドラートを設置して定量調査を行う。洪水撹乱の評価は、たまりはつながったら撹乱、ワンドは水位が5cm上昇したら撹乱とし、撹乱頻度を定義する。1996年から2006年の撹乱頻度を68水域で調査した。ドロドロで足がはまって大変な作業である。31水域でイシガイ類が生息していた。ワンドはすべて、タマリは37のうち23で生息していた。つまり川とつながってたほうが良い。860コドラートのなかでは569地点で、トンガリ37%、イシガイ35%、ドブガイ28%。これでもかなり少ない印象。
1年に5回以上洪水がある場所、本川に近いところで生息数が多い。生息適地を50%確立でイシガイがいるところと定義(およそ年5回以上冠水するところ)、は1962年以降、減少し続けている。ワンド、生息たまり、非生息たまりの計9箇所にイシガイなどをナンバリングして沈め、どれぐら死ぬか、生きていれば成長率を実験した。環境指標として水質、水温、EC,DO,有機物、酸化還元電位などを調べた。ワンド、生息たまりではほぼ生残した。非生息たまりではどんどん死んだので、環境に問題がある。非生息タマリは底の有機物がワンドの10倍ある。落葉が分解せずに残り、嫌気的になり、貧酸素水塊が発生する。水面比高差が上がると撹乱頻度が下がり、樹林化し、落葉が入り、洪水がないので水が入れ替わらず落葉も流れない、分解されず、嫌気化し、貝がいなくなる。貝は泥が高くなると沈んでいくので、自分の体を持ち上げるためのエネルギーが多く必要になる。さらに宿主が少なくなる。
こうなってしまったタマリをどうやって再生するかというと、河原を切り下げて、年5回ぐらい冠水する河床を作って人工ワンドを作れと良いだろう。
河川は水田に比べると自然再生をやりやすく、河床が下がっても希望のもてる事業ができると思う。水田、用排水路はより危ない状況にあり、どうやって残すかが非常に重要である。仕組みづくり、予算などのハードルがある。名古屋でCOP10がある。ボンで行われたCOP9の中では、都市域のかける負荷が大きい地方自治体の役割が重要で、地域の環境を守ることを戦略的に進めることが必要である。高槻市は取り組みが進んでいるし芥川を中心とする皆さんがいるので期待が持てる。日本の多くの市町村で土地のオーナーがいる場所での環境保全は難しい。小学校と一緒に長い目で地元づくりをすることも重要であろう。
会場から
Q.)実験でネットに貝を入れて沈めているが、貝の移動性の影響はないのか。
萱場)ゆっくりでも移動するのは間違いなく、移動能力も種によって違うのだが、実験なので、そこまでできてない。先ほどの実験はワンド単位であるので、移動できたところで、どこへ移動しても生きられないと思われる。ネット内は本来の生息環境ではないが、比較としてみてもらいたい。
Q.)貝ってかなり移動するもんだな、という思いがある。
萱場)マーキングしているので、移動してもわからなくなることはない。
Q.)貝の食べているものの変化が影響するのでは?
萱場)何を食べているかというと、たまりや水田で発生するプランクトンであることは間違いない。最近では川底に生えている藻であるとも言われている。吸い込んでいるものの中の何が体を構成しているかはわかっていない。昔の砂州の環境ではプランクトンが発生しにくいので、川底の藻を食べているかもしれない。実験ではタマリの水が洪水によって入れ替わり、窒素やリンが豊富になったら生産性があがり、徐々に使い果たしてエサが少なくなるのかもしれない、ということはある。
Q.)樹林化した土砂をとりはらうと、より河床低下が起こるのではないか?
萱場)もともとの河原は上流からの土砂が河原と置き換わり、下流に流されということが起こっていたが、現在はずっと同じ材料が残っているので、下流への土砂供給の材料にはなっていない。ここを切り取ってもアクティブでなければ下流への影響はない。アユの産卵場のために陸上を切り取ることがあるが、その場合には下流の河床が下がることはあり、よく考える必要がある。
Q.)わざわざ切り取らなくても、年に何回かの人工的な洪水を起こせば解決するのではないか?
萱場)ダムがある場所からどの程度はなれているか、ダムに活用できる貯水量があるかどうか、といういろいろな要因があるので、現在の実験地ではダムから離れているので、例えば、ダムが空になるぐらいの水を流さないと冠水しないだろう。
Q.)イシガイを水槽で飼育すると、3ヶ月ぐらいで死んでしまう。部屋の中と日光の当たる場所では寿命が違う。イシガイを長く飼う方法を教えてもらいたい。
萱場)室内はダメ。普通の水産試験場は室内水槽なので、悩んでいるところが多い。光合成による付着藻類など、エサの関係があると思うが、よくわからない。広めの屋外水槽で粗放的に飼うのがいいんじゃないだろうか。水族館でも苦労しているはず。意外とストレスに弱く、人が触ると成長が止まるという人もいる。どの程度のストレスで影響がでるかはよく分からない。
Q.)芥川での調査では、小さな貝が捕れていない。貝の寿命は?
萱場)10年とかじゃないかと思う。ある川で調べているドブガイは稚貝がいなくて、洪水の時にドブガイが成貝で流れてくるという人もいる。寄生時代、稚貝時代の生活はよくわかってない。日本の淡水貝の研究者は5人もいないのでは?
Q.)アユについて、堺の川の河口には砂場がなく、アユは上らないと言われている。河口に砂場がないと遡上しないのか?
萱場)アユは意外と水が汚くても大丈夫。溶存酸素と水温さえクリアできればどの水域にも入ってくる。いったん増えると増えだすと思う。産卵場があるかどうか。コイがたくさんいるのはよくない。